第31章 思い出は黒く塗り潰される
「(勝手に誇りにされても知らないよ。何であの家の為に生きなきゃいけないの?何でそれに私と兄さんを巻き込むの?)」
私も兄さんも
操り人形なんかじゃない
「(どうして自由に生きさせてくれないの?どうしてあの家に縛られなきゃいけないの?仕来りや規則なんて…無くなっちゃえばいいんだ。)」
全てが嫌になって一度だけ、誰にも内緒で宮村の家を出ようとしたことがあった。でもすぐに見つかってしまい、父親にこっぴどく叱られ、罰として夜ご飯を抜きにされた挙句に部屋に閉じ込められた。
「(流石にあれは死ぬかと思った。泣き叫んでも誰も助けてくれなくて、大きな声で叫んでるから余計にお腹も減って…。でも兄さんがこっそり部屋に来て自分のご飯を分けに来てくれたっけ…)」
"良い結果"を出す事が当たり前だった。テストは常に満点。成績は絶対に一位をキープ。それで悪い結果を出すと父親の期待に背く事になり、また失望される。
『テストで満点取らなかっただけで飯抜きとか…虐待に近ぇじゃん』
いつか友人が言った言葉を思い出す。確かにその話だけを聞けばそれに近いだろう。それでも面倒事を嫌う父親は実際に手を上げたりはしなかった。
「(その代わり、ナイフのような鋭い言葉で私の心をズタズタに引き裂きはしたけど…)」
ぐっと顔をしかめ、嫌悪感を顕にする。
「(でも…それも終わった。兄さんが私をあの家から連れ出してくれたおかげで、"良い結果"を守る事もなくなった。)」
もし、兄さんが私を連れ出さず
今もずっとあの家にいたら
きっと私は壊れてた
「(それでも勉強は手を抜かない。一位をキープすることはなくなったけど、上位に名前があるだけでも良い結果だと思う。)」
兄さんは絶縁覚悟で私を救う為に家を出てくれた
あの家から解放されたのは嬉しいが
大人になった今でも
"あの人達"の呪いの言葉を思い出す
「好きで生まれたんじゃない…あんな家。私だってもっと…普通の子と同じような日常が欲しかったよ。いなくなってしまえばいいのは…あの家の奴らだ」
目元を腕で覆い隠し、憎らしげに呟いた。
.