第31章 思い出は黒く塗り潰される
「朝飯はおかゆに変更だな。作ったら食えそうか?」
「でも…もう朝ご飯作っちゃったんでしょ?食べないと勿体ないよ…」
「俺が夜に食べるから気にすんな。それよりお前の熱を下げるのが優先。卵がゆでいい?」
「うん」
「分かった」
「迷惑かけてごめんね…」
「なーに言ってんだよ。迷惑なんて掛けたと思うな。大事な妹が熱出して辛そうなんだ。看病すんのは兄貴として当たり前だろ」
くしゃっと頭を撫でられる。
「食べ終わったら薬飲んで…明日になっても熱が下がらなかったら病院行こうな」
「うん…いつもありがとう。私、兄さんが此処にいてくれて本当によかった」
未来では
私の傍にいない
たった一人の大事な兄さん
「俺はいつもお前の傍にいるよ。この先、お前が大人になってもずっと。兄ちゃんが傍にいれば安心だろ?」
「……………」
その言葉に何も言えなかった。未来では殺されてしまうマドカ。いつも傍にいてくれた唯一の存在が…あの世界にはもう、いないのだ。
「うん」
泣きそうになるのをグッと堪え、下手くそな笑顔で笑う。それに気づかず、マドカも笑う。
「帰りにアイスでも買って来てやるよ。何味が食べたい?」
「バニラ味がいい」
「バニラなー。あ、デザートも買って来てやろうか?コンビニに新作のスイーツが出てるかも知れねーぞ〜」
「そんなに食べられないよ」
「なら熱が下がったら一緒に食おうな。お前が好きそうなデザート、選んでやる」
「ココア飲みながら食べたいね」
「いいな!じゃあアイスとデザートな!」
ポンポンっと頭を軽く叩き、マドカはおかゆを作りに部屋を出て行った。
「……………」
そうだよ 今は自由なの
あの頃みたいに
甘えることも許されず
弱音を吐くことも許されない
地獄のような世界じゃない
「いつまで"あの人達"の呪いに脅えてるの…」
もう…私を縛るものはない
誰も私の存在を否定したりしない
私は自由なんだ
兄さんと二人で
自由を手に入れたの
だから……
「きっと大丈夫…」
そうでしょう───?
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