第31章 思い出は黒く塗り潰される
「佐野が我儘言ってお前との電話を引き伸ばした可能性もあるだろ」
「ない」
どうしてもマイキーのせいにしたいマドカの言葉を即否定する。
「(もし本当にそれが原因で体調を崩したとしてもマイキーくんのせいじゃない。だって彼との電話を楽しみにしているのは私だもん。もっと喋ってたくて、わざと電話を長引かせているのは私の方だ。)」
"今日はこんなことがあった"
"この前テレビで特集してたスイーツが美味そうだったから今度二人で食べに行こう"
"ケンチンにカノの話いっぱいしたら惚気んなって怒られた〜"
「(マイキーくんの声を寝る前に聞いて眠れるなんて凄く幸せなことだ。あぁ…私、マイキーくんに溺れてるなぁ。)」
そして切る前には必ず──
"大好きだよカノ"
愛の言葉を嬉しそうに伝えてくれる。
「体温計持ってくるから待ってろ。今日は熱がなくても学校は休む事」
「少しくらいの熱なら平気だよ。それに…熱が出たくらいで弱音を吐くなんて…」
「熱が出ても休んでいいんだ。体調が悪いなら弱音だって吐きたくなる。それでいいんだよ、それが普通なんだから」
「それが…普通…」
「あの頃みたいに休む事を許されず、弱音も吐けない状況じゃない。今は自由なんだ」
「!」
「ほら、ベッドに横になれ。体冷やすと大変だからちゃんと布団は肩まで被れよ」
カノトをベッドに寝かせると、体温計を取りにマドカは部屋を出て行った。
「(頭がぼんやりする。熱を出したのはいつぶりだろう…文化祭ではしゃぎ過ぎたかな。)」
そしてマドカが体温計を手に戻ってくると、すぐにカノトに熱を計らせる。
ピピピピッ
「何度だった?」
「…37.8度」
「結構高いな…」
「(ダメだな…体は子供のままだけどもう良い大人なのに…自分の体調くらいちゃんと自分で管理しなくちゃ。)」
「冷えピタでも貼っとけ」
「冷たっ」
熱さまシートを貼られ、突然の冷たさに体がビクッと小さく跳ねる。それを見たマドカは可笑しそうに笑った。
「ひんやりしてて気持ちいいだろ〜。学校には連絡しておいた。今日は安静にしてろよ」
「うん…ありがとう兄さん」
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