第31章 思い出は黒く塗り潰される
締め切ったカーテンから漏れる日差しがベッドのシーツの上に射し込み、うつ伏せの体勢で枕に顔を埋めたまま眠りについていたカノトの耳に、睡眠を妨げるように昨日セットした目覚まし時計が大きな音を立てて鳴り響いた。
「……………」
ゆっくりと手を伸ばし、聴覚を刺激する耳障りな音を静まらせる為にバシッとアラームのスイッチを止める。
「ん…んん…」
いつもなら目覚ましが鳴る前に起きるのだが、何故か今日に限ってベッドから起き上がらない。
コンコンッ
「カノー?起きてるかー?」
起床時間になってもリビングに来ないカノトを不思議に思ったマドカが部屋の前までやって来てドアを数回ノックする。
「朝飯の支度できたぞー」
マドカが呼び掛けるもカノトからの返事はない。"まさか…まだ寝てんのか?"と心配になったマドカはドアノブを掴む。
「(目覚ましは止まってる。けど返事がないってことは…)」
嫌な予感を覚え、"入るぞ"と一声掛けてからドアを開けた。
「はぁ…やっぱり」
まだ寝ているカノトを見たマドカが呆れたように溜息を一つ零す。そしてシャッと両手でカーテンを左右に開ければ、薄暗かった部屋全体に太陽の日差しが射し込んだ。
「カノ!いつまで寝てんだ!」
「……………」
「いつもならもう朝飯食ってる時間だろ。今日はどうした?」
マドカに叱られ、やっと目が覚めたカノトは、まだ眠たそうな目を擦り、ベッドの上に座ってボーッとする。
「…兄さん、風邪っぽい」
「何?」
「(体が…ダルい。)」
「お前、少し顔赤くないか?」
カノトのおでこに手を遣る。
「熱があるな」
触れた掌に伝わる熱がいつもより熱かった。
「(兄さんの手、冷たくて気持ちいい…)」
そっと目を閉じる。
「珍しいな。お前が熱出すなんて。昨日、夜更かしでもしたのか?」
「ううん…。宿題やって…ココア飲んで…読みかけの本を読んで…それで…マイキーくんと少し電話で話しただけ」
「まさか佐野が熱を引き起こした原因なんじゃ…」
「私の体調管理が出来てなかったせいだよ」
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