第23章 変わらなかった世界
「急に呼び出して悪ィな、ナオト」
「なんですか?大事な用事って。というかカノさん…大丈夫ですか?」
「え?」
「目が真っ赤ですけど…」
「あ…ああ!うん!ヘーキ!ちょっと花粉症で目が痒くって!」
「花粉症…?そんな時期だっけ?」
「あ、はは…」
心配そうにこちらを見るタケミチを安心させるようにニコッと笑う。
マイキー達と別れてすぐ、我慢していた寂しさが切れたように涙が溢れた。もうこの時代のマイキーに会う事はない。それがどうしても寂しくて悲しかった。
「(文化祭、楽しみにしてたのになぁ。もしかしたらマイキーくんと回れるかもって…)」
だがそれももう叶わない。二人は今日、未来に帰るのだから。
「(今更何を思っても無駄だ…。)」
タケミチはナオトに向き直り、頭を下げた。
「ヒナを…姉ちゃんをよろしくな!」
ナオトは驚いたように目を見張る。
「おかしい事言ってるのはわかってる。でもっ……っ」
「………、でも?」
「ヒナを頼む!!」
「ヒナちゃんを…お願いね、ナオトくん」
タケミチは手を差し出す。
「わかりました…」
ガッ
二人が握手を交わした瞬間、頭の中でいつもの鈴の音がチリン…ッと鳴った。
✤ ✤ ✤
2018年───現代。
「…ここは?」
《どうして私を忘れてしまったの…?》
「っ…………!?」
意識がハッキリと戻ると何故か薄暗い空間にいて、急に若い女性の声が正面から聞こえ、驚いて顔を前に向けた。
《あなたの記憶から私が消えて、他の誰かがあなたの記憶に残って、その人が"私の代わり"になり得る人だとしても…私はずっとあなたの記憶に残る人でありたい。》
「(あ……映画館……)」
《あなたが私の事を思い出せなくても、私はあなたの事を覚えてる。あなたが私にくれた、たくさんの思い出だって、全部覚えてる。だって…好きな人との大切な思い出だもの。》
スクリーンの中の彼女は交通事故に遭った恋人に自分の存在を忘れられていた。それでも彼女は懸命に彼を世話して、二人の思い出をたくさん語った。だが…そんな彼女の想いも虚しく、彼は最後まで大事な恋人の存在を思い出す事はなかった。
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