第23章 変わらなかった世界
「(なんて後味の悪い映画なの…。恋人に自分の存在を忘れられたなんて。私なら絶対に堪えられない。)」
席を立ち、映画館を出たカノはスマホを出し、日付を確認した。
「(戻って来れた!!ここが前の現代なら私はナオトくんの案内で個室に一人でいたはず!!なのに映画館にいるって事は…現代は変わってる!!)」
嬉しくなって顔が綻んだ。
「(そうだ。念の為、兄さんが生きてるのか調べないと…)」
検索に"宮村望"と打ち込み、そこにズラッと並んだニュースを見る。
「…………え?」
【宮村望さん、通り魔に襲われ死亡。犯人、未だ行方知れず。】
「ッ………どうしてッ!!?」
怒りで頭に血が昇り、両手でスマホを握り締めたまま叫ぶ。
「(何で兄さんが死んでるの!?現代は変わったはずでしょう!?だから私もここにいた!!一体どうなってるの!?意味が分からないよ…!!)」
一気に絶望の底へと叩き落とされ、ショックでその場に座り込む。
「何で…どうして…っ…うぅっ…」
「───カノさん。」
控えめに名前を呼ばれ、涙を流したまま、顔を上げる。
「やっと見つけました。」
「ナ…オト…くん…?」
「はい」
ナオトは座り込んだカノの体を支え、ゆっくり立ち上がらせる。
「っ…ナオトくん!!兄さんが…っ!!ニュースで!!私ッ……何が起きてるのか分からなくて…ッ」
「……………」
「どうしてナオトくん…!!何でこの世界に兄さんはいないの!?だって変わったのに!!…変わった、はず…なのに…ひっく…うぅ…どうして兄さんがいないのぉ…っ?」
ボロボロとまた涙が溢れ落ちるカノはナオトに縋り付く。そんな彼女をナオトは悲しげな目で見下ろしている。
「カノさん、タケミチくんの所に行きましょう」
「!」
「そこで全て話します」
「全て…?」
ナオトは辛そうな顔で頷く。
「…分かった」
「歩けますか?」
「うん…」
ナオトの支えがあり、どうにか歩き出す。
「(あぁ…何も変わってないんだ。あの頃と同じ…兄さんのいない世界だ──。)」
空虚な眼差しで青空を見上げた…。
next…