第20章 望んだ未来の"もしも"の話
少し落ち着いたところでマドカが用件を伝えると、母親の着物は綺麗に保管して箪笥の奥に仕舞ってあると云う。私用で必要になったから貸して欲しいと伝えたところ、早急に運転手に届けさせるとのこと。
それから数分後、驚く速さで礼儀正しい運転手が平らな箱に入った着物を届けてくれた。
「お母さんが10代の頃に着ていた着物…」
「落ち着いた色だし、模様も綺麗だし、カノにピッタリだな」
「着てみようかな」
「一人で着付けるの大変だろ。手伝える事があれば手伝うよ」
「ありがとう、兄さん」
白の百合があしらわれた淡い紫色の二尺袖着物に、上から下に掛けてグラデーションされている白と紫の袴、帯は袴の白と同じで振袖の下辺りで横結びにし、靴は袴用のクリーム色をした編み上げブーツを選ぶ。
「帯飾りはコレでいっか」
ビーズとタッセルが付いた細長いS字になった鉄製のフックを帯の間に引っ掛ける。あとは簡単に髪を横に編み込んで、椿の髪飾りと首に巻くファーを付けて完成だ。
「カノちゃん…」
「どうかな?」
「いつも綺麗だけど今日はそれ以上に綺麗!!もう似合いすぎて写メ連写しちゃう!!」
「撮り過ぎじゃない?」
パシャシャシャシャーッ!!と携帯を構えたマドカは美しく着飾ったカノトの着物姿を見て何枚も連写した。
「天使かよ俺の妹!!着物似合い過ぎるだろ!?カノに着られる為に着物が存在すると言っても過言ではない!!」
「それは言い過ぎだと思う」
「あとで美代子さんにも送ってやろ♪」
「(兄さんと似たような反応が返ってきそうだな…)」
「こうして見るとさ…やっぱ母さんに似てるな」
「そんなに似てる?」
「あの家にいた頃、美代子さんが学生だった頃の母さんの写真を見せてくれたんだよ。それが今のお前にそっくり」
「私その写真見てない…」
「美代子さんに送ってもらえるように頼んでみるよ。それより行かなくていいのか?アイツに内緒で見せに行くんだろ?」
「うん」
「気を付けて行くんだぞ」
「行ってきます!」
変に気合いを入れて、カノトはマイキーの家へと向かった。
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