第20章 望んだ未来の"もしも"の話
次の日の朝、いつもより早く起きたカノトはリビングで珈琲を飲みながらテレビを見ていたマドカに声を掛ける。
「おはよう、兄さん」
「おーおはよ。今日は早いな?」
「あのね、兄さんにお願いがあるの」
「急に改まってどうした?」
「お母さんの着物って…宮村家から持ってくる事って、できる?」
「!」
マドカはカップに口を付けたまま、驚いた顔を浮かべていた。
「…できるけど、何でまた母さんの着物なんか…」
「ちょっと…見せたい人がいて…」
「隠さなくても分かる。アイツだろ?佐野万次郎。」
「え…あ、うん…」
「初詣は袴着て行ったからな。どうせお前の着物姿が見たいって言い出したんだろ」
「(凄い兄さん、当たってる。)」
「俺も見たかったからな!袴着て行くって知った時はショックだった!せっかく着物姿のお前を写真に収めたかったのに…!!」
「相変わらずブレないね、兄さんは」
カップをテーブルに置き、ソファーから立ち上がる。
「美代子さんに電話して聞いてみようか」
美代子とは長年宮村家の家事や料理をしてくれているお手伝いさんだ。元助産師でもある。それ故、二人を産んでくれた母親の出産に立ち会い、取り上げたのも彼女だ。
「ごめんね…兄さんに頼んじゃって。もうあの家とは勘当した覚悟で出たのに…」
「何言ってるんだ。お前がそんなこと気にする必要はないっての。さーて…美代子さんの携帯番号はっと…」
ポケットから携帯を出し、美代子に電話を掛けると、ワンコールで繋がり、マドカが久しぶりに挨拶を交わそうと口を開こうとしたら"マドカ坊ちゃん!!生きておられましたか!!あの日以来何の音沙汰も無いのでてっきりもう…!!"と縁起でもない事を言い出した。
"いや美代子さん、俺生きてるからね?勝手に死なせないで?"とマドカはツッコんだ。"お嬢様も元気でおられるのですか!?"と興奮冷めやらぬ勢いで話すのでマドカが隣にいたカノトに携帯を渡す。
"美代子さん!久しぶ…"と言いかけたところで"お嬢様!!良くぞご無事で!!"とマドカにかけた言葉と同じ事を言うので"美代子さん、私、死んでないよ?ちゃんと生きてるからね?"と冷静に返した。
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