第16章 命乞いにはスイーツを。
「…おかえり。」
「(喧嘩中は"ただいま"すら言わずに帰ってきたらそのまま自分の部屋に行ってたからな…驚くのも当然か。)」
「びっくりした。今日は『ただいま』って言ってくれるんだな」
「……………」
「外、寒かったろ?今温かい飲み物入れてやるから座って待ってろ」
ソファから立ち上がりキッチンに向かったマドカは棚からマグカップを取り出すと、そこにココアの粉を入れ、ポットのお湯を注ぐ。
鞄を邪魔にならない場所に置き、ソファに座って、ココアが出来上がるまでテレビに目を向けた。
《明日はクリスマスですね!白い雪がまるで光のように降り続いていますが、体調には十分気をつけて過ごしましょう。》
「(クリスマス…)」
コトン…とココアが入ったマグカップをカノトの前のテーブルに置く。
「熱いから気をつけて飲むんだぞ」
「……………」
湯気が立ったマグカップの取っ手を持ち、口を付ける。こくん…と飲むと口内と喉の奥から甘味が広がり、ほう…っと吐息を洩らす。
「ねぇ…兄さん」
「なんだ?」
「もう…マイキーくんとは会わない」
「!」
「だから心配しないで」
決して目を合わさず、テレビに目を向けたまま、マドカに"嘘"を告げた。
「私からも連絡してないし、向こうからも連絡来ないから安心してよ」
「…そうか」
「だから明日はみぃちゃんと汐ちゃんのクリスマスプレゼント買いに出かける」
「……………」
「家の飾り付けは兄さんに任せるね。私も帰ってきたら手伝うよ」
「わかった」
「(ごめん兄さん。嘘ついてごめんね。でもこうでも言わないとマイキーくんと会わせてくれないでしょう?)」
マドカに嘘を吐いた罪悪感を少し抱えながら残りのココアを時間をかけてゆっくり飲み干した。
✤ ✤ ✤
クリスマス当日────。
「(今頃タケミチくんと千冬くんは八戒くんを止める為に教会に行ってるはず。気をつけて、二人とも…。)」
雪が降る中、傘を差し、街中を歩いていた。
「(兄さん…疑いもせず『行ってらっしゃい』って言ってたな。嘘つきな妹でごめん。)」
コートに身を包み、傘の柄をギュッと握り締める。
.