第16章 命乞いにはスイーツを。
「…"乾青宗"。」
「え?」
「名前。乾青宗だ。覚えろ馬鹿。」
「あ、はい…って、馬鹿!?」
ふんっとイヌピーは腕を組みながら顔を逸らす。
「"九井一"。忘れたら殺すからな♪」
「こっちは笑顔で物騒な事呟いたんですけど!?」
素っ気ない態度のイヌピーとは逆で、ココはべっと舌を出しニヤけた笑みで笑った。
「青宗くんと一くんですね。大丈夫ですちゃんと覚えますから馬鹿呼ばわりと殺すのだけはやめてください」
「馬鹿。」
「ばぁーか♪」
「だから何で!?」
絶対に面白がってるでしょ!!
ぐぬぬ…と悔しげに睨めば、イヌピーの携帯が鳴る。
「オマエ男のクセに小さいな」
「ほぼ初対面なのに失礼ですね!!」
「その顔ぐちゃぐちゃに歪めてやりてぇ」
「おおお…恐ろしい事言わないでください!!スイーツ返してもらいますよ!?」
「あ?これはオマエが"どーしても"って言うから貰ってやったんだろ。命乞い…無かった事にしてやってもいいんだぜ?」
「どうぞ貰ってやってください!!」
シュバッと両手を差し出して、"どうぞどうぞ"とココにスイーツを返されないようにする。それを見たココが可笑しそうに笑う。
「ココ、戻るぞ。ボスからだ。」
「せっかく面白いオモチャ見つけたのにもう帰るのかよ。つまんねーなぁ。」
「(オモチャ!?)」
ココはパイシューの方を無理やりイヌピーに押し付け、二人は背を向けた。
「じゃあなカノト。次も殺されたくなきゃ限定スイーツ用意しとけよ」
「東卍はオレらの敵だからな。今回は見逃すが次オレらのシマで会ったら殺す」
「(去り際になんて事を…!!)」
立ち去る二人の背中に"BD"の文字を見つけた。
「(BD…?何だろう?)」
その時はあまり考えなかった。完全に二人の気配が消えたのを感じ、改めて安堵の息を洩らす。
「し、死ぬかと思った…。スイーツ持ってて良かったぁ〜」
二人がいる間は生きた心地がしなかった。
「もう早く帰ろ。さっさと帰ろ」
来た道を引き返し、今度こそ無事に家に帰宅したのだった。
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