第16章 命乞いにはスイーツを。
「そもそも僕のこの顔は生まれつきです!!イケメンなのは仕方なく無いですか!?」
「その顔ボコったらブスになんだろ」
「わああ!!待って待って!?」
肩を掴んだまま拳を構えた男を見て本気で殴ろうとしているのだと思った。危険信号が頭の中で鳴り響き、絶体絶命のピンチだと悟ったカノトは持っていたコンビニ袋を慌てて漁り、その中の一つを男に差し出した。
「コレあげるので勘弁してください…!!!」
「!」
まるで命乞いをするように両手で差し出したのはちょっとお高めの限定スイーツだ。普段は値段からして中々手が伸びないのだが、マドカと喧嘩をした腹いせに目の前で食ってやろうと思い買っておいた"プレミアムロールケーキ"の苺味。
「……………」
「あ!コレだけじゃ不満です!?だったら"パイシュー"の苺味も一緒に付けますので命だけは助けてください!!」
「苺味ばっかじゃん」
「すみません…」
ズーン…と落ち込んでいると、手の上からパイシューとプレミアムロールケーキが無くなる。行先は男の手の中だった。
「"今回だけ"は仕方ねェから見逃してやる。『限定』だったからな。けど…こんなんで助かったと思うなよ?」
「あ、ありがとうございます…!!」
"限定じゃなきゃ殴られてたのか"という言葉は敢えて引っ込めた。
「…何してんだ、ココ…」
「おーイヌピー。さっきの奴が逃げ出したから捕まえてイジメてやろうと思ったけど命乞いで甘いもんくれたから今回だけは見逃す事にしたところ」
「(なんか増えた!?)」
"ココ"と呼ばれた男の後ろから同じ特服を着た男が現れる。
「オマエ"パイシュー"と"プレミアムロールケーキ"どっち食う?両方とも苺味な」
「どっちもいらない。ところで…何で『東卍の最終兵器』が此処にいる?」
「!」
顔左側に痣を持つ男が冷たい目でカノトを見る。その冷えた瞳に思わず体を跳ねさせた。
「"東卍の最終兵器"って…僕の事ですか?」
「他に誰がいる。"血のハロウィン"でオマエは圧倒的な強さで敵をぶっ倒した。見た目は不良ぽくないクセして、強さだけはあのマイキーも認める程の実力だ。あとは…オマエがマイキーの『お気に入り』だって事も知ってる」
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