第12章 狙った獲物をオトす為に
「!」
ギュッと抱きしめる一虎に驚いて、目線だけを横に流す。
「羽宮くん…?」
「怖ぇなら我慢すんな。ちゃんと泣け。今はオレしか見てねェから」
「!……ふっ……うぅ……ううぅ〜……」
ポロポロと涙を流し、一虎の背中にしがみつく。
「怖かった…怖かったよぉぉ…。あのまま本当にアイツに捕まるんじゃないかって…ひっく…押し倒されて…抵抗できなくて…うぅ…身体が密着して…き、きす、まで…」
強引に重ねられた唇。まだ半間との感触が残っている気がして、ごしごしと唇を拭う。
何度も何度も、強く擦り付ける。
「そんなにしたら唇が切れンだろ」
「気持ち悪い…気持ち悪いの…」
一虎に手を止められ、悲しくて涙を流す。
「なら、オレが上書きしてやろーか」
「!」
驚いて一虎を見る。彼は真剣な目で、カノを見ていた。
「それはダメ…」
「まだマイキーが好きなのか?」
「……………」
「あれから12年だぞ。いつまで会えないアイツを待ち続けるつもりだ?」
「それでも…待つの。あの人が…私のところに帰って来るって、信じているから。例えあの人が、私の事をもう…見捨てたとしても、私はずっと、傍にいるって決めたの」
「…相変わらずマイキーしか目に入ってないんだな。それって、辛くないか?」
「今も昔もマイキーくんだけだよ。それに辛くないよ。"繋がり"がある限り…きっと私達はまた出逢える」
ネックレスをギュッと握りしめる。
「オマエ…ホント良い女になったな」
「…私が女だって知ってビックリした?」
「出所するまでずっと男だと思ってたからな。オマエの居場所を探る内に女だって事を知って…驚きでしばらく放心してたわ」
「騙すような真似してごめんね」
カノは心苦しそうに笑う。
「……………」
「羽宮くん?どうしたの?私の顔じっと見つめて…何かついてる?」
キョトンとするカノの顔をじっと見つめる一虎。カノが不思議そうな顔を浮かべると"いや…"と短く言い、立ち上がる。
.