第12章 狙った獲物をオトす為に
「(これって…有名店のケーキ!)」
「美味そうだろ?」
「…そうですね」
「食ってみろよ」
「じゃあ…いただきます。」
備え付けられていたフォークを使い、一口サイズに切ったケーキを口に運ぶ。
「…………!」
あまりの美味しさに声が出なかった。
「(スポンジがふわっふわ!生クリームも甘すぎなくていい!苺も大きいし美味しい!)」
フォークを口に入れたまま、目をキラキラと輝かせる。
「ねぇ一つだけ…聞かせて」
「!」
「12年間、一度でも、私を好きにならなければ良かったって後悔した事あった…?」
「…何度もあったよ。勇者チャンに出会わなければ勇者チャンを好きになる事はなかった。何でオレは勇者チャンじゃなきゃ駄目なんだって…思い苦しむ事もあった」
「……………」
「オレのせいで勇者チャンは傷付いたんだ。昔も今も…後悔だらけだよ」
「そう…ですか」
「本当にごめんな。もう…勇者チャンに付き纏ったりしねェし、会いにも来ねぇからさ、これからは安心して過ごせよ」
「(半間が…ここまで変わるなんて。)」
もしかしたら未来は
ハッピーエンドに近づいてる?
それから半間は約束通り椅子から一歩も動かず、カノがケーキを食べ終わるまでずっと悲しそうな顔で笑いながら待っていた。
「ケーキ、ご馳走様でした…」
「いいって。勇者チャンが美味しそうに食べてくれただけでオレとしては満足だからさ」
「…………」
「久しぶりに会えて嬉しかったよ」
半間は椅子から立ち上がる。
「時に勇者チャン…」
「え?」
「さっき"昔も今も後悔だらけだ"って言ったけど」
「?」
「あれ、ウソなんだわ」
「……え?」
「12年間、ずぅっと、勇者チャンだけを想い続けてきた。勇者チャンを好きにならなければ良かったなんて…思う筈ねーだろ?」
ニコッ…と半間が微笑む。
「さぁ勇者チャン。今日こそオレに捕まってくれよ?」
その時、視界がぐにゃりと歪んだ。
「(あれ…?)」
力が抜け、椅子からずり落ちる。視界の中で捕らえたのは…こちらに歩いてきた半間がカノに手を伸ばす瞬間だった。
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