第8章 寂しがりな君に贈るキス
「きっともう…オレはオマエを手放してやれない。自分からは…手放してやれる自信がねぇ。だから…この先もオレの傍にいる覚悟がないなら、今ここで、突き放してくれ」
“まだ引き返せる”───そう言われている気がして、驚いた顔を浮かべる。“突き放してくれ”と言う割に寂しそうな顔だ。繋いでいる手も離れないでというようにギュッと強く握られる。
「(本当にどうしようもない人…)」
でも、それが凄く愛おしい。
「(総長でいる時とは大違い。)」
“無敵のマイキー”と恐れられ、誰もが知るカリスマ中のカリスマで、喧嘩の強さは天下一品。そんな彼が、母親に叱られた子供のように寂しげな顔を浮かべ、好きなものを取られたくない子供のように、カノトの手を絡ませている。
「(今更…離れるなんて無理だ。私は…この人を…『佐野万次郎』という人間を、愛してしまったのだから。)」
自由になっている方の手を伸ばし、マイキーの頬に触れる。ピクッと小さな反応を見せたマイキーがじっとカノトを見つめている。
「マイキーくんが私を突き放す事があっても、私はマイキーくんを突き放したりしません。だって…もう傍にいるって決めたんですから」
「…オマエを手放してやれねぇんだぞ。それでも、オレの傍にいてくれるの?」
「はい」
「っ…………」
ハッキリと口にし、ニコッと笑う。マイキーの瞳が揺れた気がした。ゆっくりと頬に手を伸ばし、カノトの手の上から自分の手を重ねる。
「カノ、好きだよ」
「やっと名前を呼んでくれた」
それだけで嬉しくなり、ふにゃっと笑う。
「…助けてやれなくてごめんな」
「何でマイキーくんが謝るんですか」
「オレが一緒だったら、オマエにこんな痕付けさせなかったのに…くそっ、すげー腹立つ。アイツを殺してやりたい…」
「僕の危機感が足りなかっただけです。この前マイキーくんに言われた意味が理解できました」
以前、マイキーに危機感がないとたしなめられた。あの時はどういう意味か理解できなかったが、自分に危機感がなかったせいで、一虎にこんな痕まで付けられ、自分の軽率な行動のせいでマイキーにこんな顔をさせてしまった。
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