第8章 寂しがりな君に贈るキス
「……………」
ゆっくりと顔が離れると、マイキーはどこか悲しげに眉を下げ、カノトをじっと見下ろしている。けれどその瞳の奥に宿った感情には寂しさが垣間見えた。
「“私”は、この先もずっとマイキーくんの事しか見ません。例え貴方に酷い事をされても、私は貴方の傍を離れません。だから…“カノ”って、呼んで…」
ポロッと一粒の涙が流れ、シーツにシミを作る。怒っている間、マイキーは一度もカノトの名前を呼ばなかった。触れた手のぬくもりも、あたたかくなった。いつもの優しい声が凍えるように冷たかった。柔らかな笑顔も、今は感情を無くしたように無表情で、悲しかった。
「…一虎にコレ付けられた時、どんな気持ちだった?」
マイキーが静かにそう言い、一虎が付けたキスマークを人差し指の外側でそっと触れる。
「嫌でした…気持ち、悪くて…やめてって言っても…離してくれなくて…こ、怖くて…」
その時のことを思い出し、ふるっと身体が震える。肌に吸いつかれた、唇の感触。ねっとりと肌を這う舌触り。吐きそうだ。
「なぁ、オレが怖い?」
「え?」
「アイツと同じようにオマエの自由を奪って、逃げらんねぇように何処かに閉じ込めるっつって脅して、首に手を掛けてオマエをオレだけのモノにしようとするオレが、怖い…?」
「怖くないですよ」
「なんで…そう言い切れんの?」
「…さっきのキスで、察してください」
好きだと伝えられない代わりに重ねた唇。その想いはマイキーにも届いていた。だから驚いた目でカノトに言う。
「オレのことが…好きだから?」
「……………」
「だから…傍にいてくれんの?」
“はい…”と小さく呟いた声を聞き逃さなかったマイキーの目に光が戻り始める。じんわりと頬に熱が帯び、恥ずかしさで目を逸らすカノトにクスッと笑い、まだ少し目尻に溜まっている涙を指で拭った。
「また…怖がらせちゃったな」
その声はもう冷たさを感じず、どこか申し訳なさそうに吐き出された。
「オレは…オマエのことになると、自分を見失っちまうんだ。一虎に付けられた痕を見た途端、激しい嫉妬と怒りが抑えられなくなった」
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