第8章 寂しがりな君に贈るキス
ツゥー…と肌の上から赤い印をなぞる。くすぐったさに身をよじると、“逃げんな”と顎を掴まれた。
「もうアイツとは会うな」
「それは…できないです」
「オレの命令が聞けねぇの?」
その言い方に少しむっとする。
「例え“命令でも”、僕は羽宮くんの友達をやめるつもりはありません。羽宮くんが原因でマイキーくんがお兄さんを亡くしてしまった事は知ってます。でも羽宮くんは…」
「“羽宮くん羽宮くん”ウルセェよ…。オレの前でアイツの名前出すな。オマエがアイツの名前を呼ぶのも気に食わねぇ」
怖くて身体が震えるも、目を逸らしてはダメだと思い、真っ直ぐマイキーを見る。
「そう…そうやってオマエはオレだけを見てればいい。他の男なんか視界に入れんな。ずっとオレだけ見てろ。じゃなきゃ…どこかにオマエを閉じ込めそうだ」
目を見開いたマイキーの手が首に回る。
「それともいっそ…オマエを…」
ほんの少し微かに首を掴む手に力が入る。それほど痛くはないが、若干の息苦しさに顔を歪めた。
首に手が回っている為、解放された片手でマイキーの頬を引っ叩いて逃げる事もできる。“怖い”と拒絶し、“大嫌い”と突き放す事もできるだろう。
「(でも一度拒絶してしまったら…マイキーくんは二度と私を見てくれない。)」
こうして触れる手も、笑ってくれる顔も、“好き”だと言葉にしてくれた優しい声も、全部…失ってしまう。
「(そんなの…絶対にいや。この人の目も、声も、手も、唇も、囁いてくれる愛も…全部…全部私だけのものなんだから───。)」
自由になった手でマイキーの胸ぐらを掴み、グイッと自分の元に引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
「!!」
カノトの突然の行動に光を無くしていたマイキーの目が大きく見開かれる。
「(本当はずっと前から気付いてた。マイキーくんに対する、自分の想いを。でも今は貴方にそれを伝えてあげる事ができない。)」
兄さんを救う未来を見つけるまで
私が幸せになることは許されない
「(だから、せめて…キスから伝わってほしい。私は貴方が好きです、大好きです。)」
じわりと目頭に涙が浮かび、掴んでいた胸ぐらを離す。
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