第8章 寂しがりな君に贈るキス
「勝手に聞いてしまって…」
「別にオマエ悪くないじゃん。だからそんな泣きそうな顔すんな」
「……………」
「分かってんだ…あの“事件”は今更どうにもならねぇ事くらい。でも心がついてこねぇ。兄貴を失った痛みは…2年経った今でも全然癒えねぇんだ」
くしゃりと前髪を掴み、泣きそうに顔を歪めたマイキーを見ていられたくなって、カノトはギュッと抱き着いた。
「なーに、カノから抱き着いて来るとか嬉しいんだけど」
「(家族を失った胸の痛みは…大人になった今でも癒えない。兄さんが死んだあの日から…私の心はどこか空っぽだ。)」
私だって分かってる
タイムリープする前は
兄さんのいない世界で生きてきた
「(毎日眠れなくて…目の下に隈もできた。外で兄妹を見る度に兄さんのことを思い出した。)」
どうしてあの人達は幸せそうに笑って
どうして私達は離れ離れになるんだって
心の底から恨んだりもした
「(だからこそタイムリープを繰り返す度に兄さんが生きていることが嬉しくて現代で死んでいることが嘘なんじゃないかって思い込む時もあった。)」
でもそんなわけなくて
兄さんがいない世界は
相変わらず色を失っていて
この胸の痛みも…膨れ上がるばかりだ
「(だからこそ未来を変えたい。兄さんが生きている世界を取り戻す。そうすればこの胸の痛みも…)」
「……………」
マイキーもギュッとカノトを抱き締め返す。
「なぁカノ」
「はい…?」
「オレは親友とは…場地とは…戦いたくねぇ」
「!」
ポロッと本音を漏らしたマイキーは顔を俯かせる。
「けど戦わねぇと場地は戻って来ねぇ。東卍の連中も戦闘モードだ。オレは…どうしたらいいんだろうな?」
珍しく弱気になっているマイキーの言葉に抱き締めていた体を少し離す。
「マイキーくんの好きにしたらいいと思います」
「え?」
「東卍の為とか総長としての立場とか無しにして、マイキーくんの気持ちを東卍の人達に伝えたらいいと思います」
「オレの気持ち?」
「はい。正直な気持ちです」
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