第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
「ハァ、ハァ…っ…ハァ…」
「…う…カノ…」
「!!」
意識を取り戻したマドカは苦しげにカノの名前を呼ぶ。
「兄さん!兄さん…!」
慌ててマドカに駆け寄る。
「ハァ…俺…殴られた…のか…」
「待ってて!今すぐ救急車呼ぶから!」
「……いい……」
朦朧とする頭で救急車を呼ぶのを拒否したマドカにカノは怒って言う。
「いいって何!?良くないでしょ!?早くしないと死んじゃうんだよ!?お願いだからもう喋らないで!!」
「ハァ…ハァ…カノ…」
「…大丈夫。絶対に私が助けてあげる…。だから兄さんは心配しないで…」
「もう…手遅れだ…。俺は…助からない…」
「そんなことないっ!!」
携帯を持つ手が震える。
「兄さんが諦めないでよ!!絶対に大丈夫だから!!私が…私が…絶対に救うんだから…っ」
ポロポロと涙を零す。
「俺は医者だ…自分の体のことは…自分が一番分かってる…ハァ…打ち所が…悪い…」
「それでも助けるのッ」
「お前も…看護師なんだから…俺の今の状態を見て…助からないことくらい…本当は…分かってるだろ…?」
「っ!」
認めたくなかった事実を突きつけられ、ショックな顔を浮かべる。
「なぁ…カノ…俺を…許してくれ…」
「え?」
「どうしても…ハァ…お前と“アイツ”の関係を…認めることが…できなかった…ハァ…きっとアイツは…お前を不幸にすると…思ったから…」
「何を…言ってるの…?」
「お前に恨まれると…分かっていても…お前達を引き離した…お前には…幸せになってほしいと…思ったから…」
「……………」
「でも…今思えば…お前の気持ちを無視して…アイツと引き離したのは…間違いだったのかもな…げほっ!」
「!もう喋らないでってば!!」
「ごめんなぁ…」
「やだ…やだよ兄さん…」
目の焦点が合わず、苦しげに呼吸をしているマドカを見てカノは体が震える。
「置いていかないで…独りにしないで…」
「……………」
「やっと取り戻せたと思ったのに…失敗しちゃった…ごめんね兄さん…」
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