第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
「はぁ…はぁ…はぁっ…!」
どこにいるの!?
「兄さん!返事をして!」
必死に探すもマドカの姿は見当たらない。どこの自販機まで買いに行ったのだろうか。一抹の不安が胸を押し寄せる。
「(掴まれた顎が痛い…)」
焦りと不安は少しずつ膨れ上がり、最悪の未来を予想したカノの目に涙が浮かぶ。
「兄さん!!」
「カノ?そんなに大きな声出してどうした?」
ハッとして振り返ると両手に缶を抱え、驚いた顔で歩いてくるマドカがいた。
「(…良かった。無事───)」
そう安堵した瞬間、街灯が照らす薄明かりの中、マドカの背後から突然、鉄パイプを持った人物が現れる。
「兄さん…!!」
「!?」
マドカが背後を振り返ったと同時にフードを頭まで被った人物は両手に握り締めた鉄パイプを思い切り、マドカの頭部目掛けて振り下ろす。
ガン!!
殴られた衝撃でマドカの身体は弾かれ、そのまま地面に倒れた。手に持っていた飲み物はバラバラと地面に転がる。
うつ伏せに倒れたマドカは頭から血を流したまま、ピクリとも動かない。
「兄さん!!!」
殴った人物は荒い息を繰り返しながら逃げようとする。混乱する頭でカノは落ちている缶を拾い上げ、そのまま思い切り投げた。
ゴン!!
「っ!?」
カノが投げ飛ばした缶は見事、逃げ去ろうとした人物の頭に直撃した。
「ふざけんなこの卑怯者!!この人が何をしたっていうの!?どうして兄さんをこんな目に遭わせるの…!!」
「……………」
「自分だけ逃げようとするな!!突然後ろから襲いかかるなんて最低…ッ!!!」
怒りを顕にするカノは涙を流しながら泣き叫ぶ。
「この人が生きる世界をやっと見つけたのにどうして私から兄さんを奪うの!!何で私達を引き離そうとするの…ッ!!!」
激しい憎しみが紫色の瞳に宿る。
「絶対に許さない…。どこに逃げても必ず見つけ出して私がお前を殺してやる!!!」
「……………」
フードを被った人物は、強い憎しみと怒りで顔を歪めるカノをじっと見つめて、クルっと踵を返し、黙ってその場から走り去った。
.