第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
口の端から血を流すマドカは悔しそうに顔を歪めて涙を流しているカノを見た。
「泣くと美人が台無し…だな」
「……………」
「なぁカノ…これからお前の歩む人生の中に…悲しい事や辛い事が…きっとある。でも…挫けないでほしいんだ…」
「!」
「お前は独りじゃない…俺が傍にいる…お前の心の中に…ずっといる…。だから…簡単に心は折られないでくれ…」
「兄さん…」
「ハァ…あー…頭がぼーっとしてきた…」
「っ…………」
「愛してるよ、カノ」
「!」
「これからもずっと───……」
妹に最期の言葉を言い残し、マドカは笑う。
「…兄さん?」
目から光を無くしたマドカの瞳孔が一点を見つめたまま動かなくなった。
呆然とした表情でカノはマドカの首に手を当てる。
「…脈拍が…止まっ…た…」
力なく項垂れ、マドカの顔に触れれば、驚くほど冷たかった。
「うっ…ふ、う…うぅ…っ」
パキンッ
何かが砕ける音がした───。
「いや…やだよ…兄さん…」
苦しくなって胸の辺りを掴む。
「いやああああああ!!!!」
悲鳴に近い声で泣き叫ぶ。
「ああああああ…!!!」
あの時と同じ
声が枯れるまで
何度も、何度も────。
✤ ✤ ✤
葬儀式場には宮村家とその親族、マドカと関わりのある友人達が参列していた。
「本日はお忙しい中、息子の葬儀にご参列頂き誠に有難う御座います。たくさんの方々に見守られ、望も喜んでいてくれていると思います」
喪服に身を包んだ父親が通夜の挨拶を述べる。親族席に座っているカノは真っ赤に腫らした目で父親の挨拶を右から左へと聞き流していた。
「……………」
魂が抜けたように呆然と一点を見つめ、葬儀に参列したが、マドカの死を受け入れられず、笑顔で写っているマドカの遺影を見ることができない。
「本日は有難う御座いました」
通夜が一通り終わり、会場を出たカノは帰る気になれず、椅子に座ってぼーっと空を眺めている。
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