第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
「……………」
ベンチに座り、マドカが戻って来るのを待つ。空を眺めていると携帯がマナーモードで鳴った。
「知らない番号…」
どうしようか迷ったが、出ることにした。
「…もしもし」
《カノさんも成功したんですね。》
「え?誰…」
《貴女もさっき過去から戻ってきた。》
ドクン
「ナオトくん!?」
《貴女とタケミチ君のおかげで全てが変わりました!》
「ナオトくん…成功したよ!私、兄さんのいる世界を取り戻したよ…!」
《はい!》
じんわりと涙が目尻に浮かぶ。
「それで…タケミチくんは?」
《姉さんと一緒です。お互いに恥ずかしがっていて会話が弾まないのでドライブに誘ったんです。今は二人で外を歩いてます。》
「現代のヒナちゃん…!生きてたんだ!タケミチくんも未来を変えたんだね!」
カノはまるで自分のことのように喜ぶ。
《カノさんはお兄さんと会えましたか?》
「うん。今ね、兄さんにレストランに連れてってもらって、その帰り道なの」
《そうでしたか。》
「ねぇナオトくん、信じられる?あの日死んだ兄さんが…ちゃんと私のいる世界で生きてるの。もう…会えないと思ってたのに。でも…ちゃんとここにいる。私の傍に…」
涙をポロポロ流して手で口を覆う。
「本当にありがとうナオトくん」
《ボクは何も。カノさんとタケミチ君が頑張った結果です。》
謙虚なナオトにカノは笑う。
《そろそろ切ります。二人が戻って来るかも知れないので。》
「うん。二人によろしく伝えて」
《はい。》
ナオトとの通話を終えると、両手で握った携帯を膝の上に乗せる。
「やっと…幸せな世界にたどり着いた」
もう…何も失いたくない
「あれ?“勇者チャン”残ってんじゃん」
顔を上げると高身長の男が立っていた。
「てっきり追いかけると思ったのに失敗だったな。まぁ、ひとりでもいっか」
気だるそうに男は首に手を遣り、マドカがいる方向をチラリと一瞥した。
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