第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
「私の馬鹿〜!いくら取り乱してたとは言え、フツー鍵持たずに家に帰ってくる!?」
ガチャッとドアノブを回しても鍵が掛かっている為、扉は開かない。自分のうっかりを反省し、諦めて病院に戻ろうと背を向けた時。
ガチャンッ
「(え?)」
鍵の開く音がして、振り返る。するとゆっくりと扉が開かれた。
「……………」
中から出て来た人物がカノを見る。
「(あれ?幻覚…?)」
視界に12年前のマドカの姿が映る。
「カノ?」
「(違う。)」
名前を呼ばれた瞬間、過去のマドカと過ごした記憶が一気に脳裏を駆け巡り、目から一粒の涙の雫が頬を伝い、流れた。
「兄…さん…」
くしゃりと顔を歪め、そこから滝のように涙がボロボロと溢れ落ちる。
「え!?どうした!?」
目の前に兄さんがいる
「何で急に泣くんだよ〜!」
「うぅっ…兄さん…兄さん…!!」
あの頃と変わらない目をした
私の大好きな兄さんがいる
「よしよぉーし兄ちゃんだぞ〜。なんだよー泣くほど会いたかったのか〜?可愛い妹めぇ〜」
慌てたマドカが号泣するカノを慰め、ぽんぽんっと頭を優しく撫でる。
「(触れる手のぬくもりが温かい。)」
本当に生きてる
兄さんが生きてる
「(タケミチくん、ナオトくん…)」
変えたんだ
現代(いま)を
「(本当に成功したんだ…ッ!!)」
嬉しくて涙が止まらなかった。
「つーかカノ、その格好のままで帰ってきたのか?荷物はどうした?」
「…病院に、忘れてきた」
「どんなドジっ子だよ」
本当はサボっちゃったんだけど…
「ふふ、早く兄さんに会いたかったの」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ〜」
カノは涙を流したまま笑った。
「今日は外食する日だろ?お前の好きそうな店、予約したんだ。その帰りにでも病院に寄って荷物取りに行こうな」
「うん…ごめんね、兄さん」
「何で謝るんだよ。誰にでもうっかりはあるっての。あーほら、いつまでも泣いてると目が腫れるぞ。せっかくの美人が台無し!」
マドカは袖でカノの涙を拭う。
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