第6章 幸せは一瞬で終わりを告げ
「まぁカノちゃん。最近姿が見えないから心配してたのよ〜」
「ご心配をおかけしました。私用で少しお休みを頂いてまして。これから採血を採りますね」
柔らかい口調の高齢女性がカノを見て嬉しそうに笑う。
「そういえば聞いたわよ〜。源先生にお食事に誘われたんですって?」
「(どこから情報が漏れた。)」
「断るなんて勿体ないわぁ。あんなに人気があってみんなからも慕われてるのに〜」
「予定が合わなくて…。そもそも私と源先生じゃ釣り合いませんよ。もっと素敵な女性と食事をした方が源先生も嬉しいはずです」
「ま!カノちゃんたら!貴女もとても可愛らしいのよ!自分では気付いてないでしょうけど!」
「そうでしょうか…?」
「だって入院してる男の患者さんからもお食事とか誘われてるじゃない。ラブレターだって貰った事あるでしょう?」
ホントどこから漏れてんの
「受け取らなかったです」
「あら?どうして?」
「もし受け取って相手に変に期待を持たせても可哀想じゃないですか。なので丁寧にお断りさせて頂いてます」
「相変わらずカノちゃんはモテモテねぇ〜」
「はい、チクッとします」
ゴムでキツく止めた腕に注射針を刺す。
「貴女は幸せになってちょうだいね」
「どうしたんですか?突然。」
「カノちゃんは優しい人だもの。相手の気持ちを踏み躙る低俗な男とは結婚しちゃダメよ?」
「それは私も嫌ですね」
「あと貴女を傷付ける男もダメね。泣かせる男もよ」
「……………」
「って、ごめんなさい。つい母親みたいな事言って。カノちゃん見てると娘を思い出しちゃって…」
「いえ、貴重なアドバイスありがとうございます。心に留めておきます。」
「貴女を大事にしてくれる男の人を見つけてちょうだいね」
「…はい」
注射針をゆっくり引き抜き、ゴムも外す。
「娘さん、元気にしてるといいですね」
「ええ、今日も元気でいてくれたと思うわ」
女性は窓から見える空を眺め、切なげに微笑んだ。
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