第57章 私の知らない貴方
「(死ぬ…これは本当に死ぬ…っ!)」
ガッと首に回っている手を両手で掴み、何とかして引き剥がそうとする。
「(ビクともしない!このままじゃ…!)」
口の端から涎を垂らしながら片目を瞑り、眉間を寄せた苦しげな表情で両足をバタつかせながら必死に逃げようとするが、馬乗りになっているマイキーがのしかかっているせいで、どうすることも出来ずにいた。
「(息、が…もうダメ…視界が霞んで───)」
引き剥がそうとした手の力が緩み、ふと意識が途切れそうになって、瞼を閉じようとした時。
「万次郎…っ!!!」
海凪の叫ぶ声にマイキーが一瞬ピクリと反応を示した。その瞬間を見逃さなかったカノトは閉じかけていた瞼をカッと見開き、両手をマイキーの顔の前で鳴らした。
パァンッ!!
「っ!?」
3連技の一つ、猫騙しを間近で食らったマイキーの動きが止まる。流石に気絶まではしなかったが、カノトはその一瞬の隙を狙い、最後の力を振り絞って、マイキーをぶん殴った。
ガッ
強い圧迫感が首から消え、肺に一気に酸素を取り込んだ事で、激しく咳き込む。
「ゲホ!ゲホ…ッ!」
恐怖からか苦しさからかは分からないが、ポロポロと涙が溢れる。
「………………」
カノトの力で殴られただけでは全くダメージを受けていないマイキー。
「ゲホッ…はッ…はぁ…はぁ…っ…」
呼吸を整えている間にも、マイキーはこちらに近づいて来る。ビクッと身体を震わせたカノトは涙を浮かべながら、無表情で冷たい眼をしているマイキーをギロッと睨みつける。
「そこまでよ、万次郎」
カノトを庇うように海凪がマイキーの前に立ちはだかった。
「退け」
「退かないわ」
「オマエまでそいつを庇うのか?」
「流石にやり過ぎよ」
「そいつは殺す」
「もう勝負は付いてる」
「必要ねェもんを自分の手で処分して何が悪い。オレはそいつの存在が目障りで仕方ねぇ」
「だから殺すの?」
「あぁ。だからそこ退けよ」
光を無くした眼で低く呟くマイキー。カノトはゆっくりと身体を起こし、疲れきった表情で二人のやり取りを静かに聞いている。
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