第57章 私の知らない貴方
「では一つだけ忠告させてください」
「?」
「確かに貴方は強いです、ここにいる誰よりも。でも、貴方が負ける日は絶対に来ます」
「あ……?」
「いつまでも"無敵"でいられると思ったら大間違いです。僕たちは絶対に諦めませんから」
「………………」
微かにマイキーの顔が苛立ちで歪んだ。
「(今までで1番怖いかも…。昔の彼なら、私のことを絶対にそんな目で見たりしなかった。黙れとでも言いたげな感じ。)」
「もういい、喋んな」
「!」
ヒュッ
「っ………!!」
マイキーの拳が振り下ろされる。顔面に当たる寸前で後ろに身体を反らせて躱すが、間髪入れずに今度はあの蹴りが襲いかかる。
ゴッ
「ぐっ!!」
横顔を腕でガードして威力を弱めたが、それでも蹴る力が強くて後ろに2.3歩下がってしまう。
「ハァ…ハァ…っ…」
雨の水滴が頬から顎に伝い、手の甲で乱暴に拭い取る。
「(防ぐだけで精一杯。あの蹴りを何度も止める余裕もない。そろそろ腕の感覚もなくなってきた…。)」
バッと顔を上げてマイキーを見た時、視界が一瞬だけぐらりと揺れた。
「っ?」
倒れそうになる身体を何とか支え、目を瞑って軽く頭を振る。するとカノトの頬にマイキーの拳が打ち込まれた。
ガッ!
「っ………!!!」
殴られた頬に強烈な痛みを感じ、そのまま地面に倒れ込む。
「マイキー!!もうやめろ!!本気でそいつまで殺す気なのか!?」
ココの焦る声を無視し、仰向けで倒れているカノトの上に馬乗りになる。
「っ……ぅ、あ……」
「テメェがオレに適うはずねぇだろ」
そう呟いたマイキーの両手がカノトの白くて細い首に伸びる。
「(え?)」
首を掴まれ、驚いて目を見開く。久しぶりに触れた手の温もりは温かさを失い、雨に濡れた手はとても冷たかった。
「これで全部壊れた」
「っ、ぐッ……!!!」
無表情で呟いた声はどこか安心感に聞こえた。そしてマイキーは手に力を込め、カノトの首を絞め始める。
「か、は…っ、あ、ぐ…ぅ…っ」
「………………」
呼吸が出来なくなり、苦しさで顔を歪める。
.