第57章 私の知らない貴方
「そうか」
こちらに近付いてくるマイキーの雰囲気が恐ろしく、緊張感に包まれる。
「ならあの世で全部吐き出せよ」
ヒュッ
「っ…………!!」
先程と同じように両腕を使って顔をガードするが、核弾頭のような強烈な蹴りには適わず、軽々と吹っ飛ばされる。
「ハァ…ハァ…ッ」
「余所見してていいのか?」
「!!」
ガッ!!
「カノ───!!」
痛みで立ち上がれずにいると、またすぐにマイキーの蹴りが横顔に直撃し、今度は脳がかき混ぜられた感覚がした。遠くの方で海凪が名前を呼んだが、気にする余裕はなかった。
「ハァハァ…ッ、うっ……」
うつ伏せで倒れたまま荒い息を繰り返す。蹴られた時に口の中を切ったのか、指先で口の端を拭えば、血がべっとりと付いていた。
「(体中痛いし、息をするのもしんどい…。)」
それでも痛む身体を無理やり立たせ、マイキーをキッと睨み付ける。
「いい加減にしてよ。抗争は終わったのにどうしてまだ戦うの?これは何の為の抗争なの?貴方が僕の友達を傷付けてまで戦う理由は何なんですか?」
「………………」
「もしただの自己満足なら…僕は貴方を許しません。傷付けることを何とも思わないなら…僕は佐野万次郎という人間を軽蔑します」
「勝手に軽蔑でも何でもしろよ。テメェに許してもらおうなんて思ってねぇ。もうテメェの知るオレは死んだ」
「…今の貴方は自分勝手で我儘過ぎる」
「ハァ…相変わらず面倒くせぇな」
苛立ちと煩わしさを含んだ声で言ったマイキーの言葉にカチンときたカノト。
「面倒くさいのはそっちです」
「あ?」
「流石の僕も貴方には呆れました。これから僕は貴方とじゃない別の人を好きになって幸せになるので、どうぞ貴方も好きに生きてください。あとで後悔しても知りませんから」
「よほどオレに好かれてる自信があるんだな。まさか未だにオレがテメェを諦めきれてないとでも思ってんのか?もしそうなら随分と自意識過剰な奴だな」
マイキーの瞳がスッと冷たさを増した。
「いい加減分かれよ。とっくにテメェのことなんか好きでも何でもねぇんだ。むしろ邪魔な存在なんだよ。後悔する理由がねぇ。」
「そう、ですか」
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