第57章 私の知らない貴方
「あの指輪は僕たちの絆を再び繋いでくれた大事な物です。かつて記憶を失った貴方に僕のことを思い出させてくれた特別な指輪なんです」
「………………」
「手放すつもりだったなら、あんなもの最初から贈らないでください。変に思い出を残していかないでください。そうじゃないと…僕はずっと貴方の面影を追ってしまう」
「なら捨てればいい。オレの面影を追って苦しむくらいならそんなモンとっとと捨てろ。それに…手元に残して置くほどソレに価値なんてねぇだろ」
「…本気で言ってるんですか?」
マイキーが冗談で言っていないことは光を無くした眼を見れば一目瞭然だった。
「貴方にとってはその程度の価値だったんですね。…なら、指輪に誓った約束にも、何の価値もないと言うんですね」
泣きそうになるのを堪え、キュッと口を結ぶ。
「僕は今でも貴方が叶えてくれると信じているのに」
「しつけぇよ。テメェとは既に決別したろ。馬鹿みたいにいつまでも約束に縋ってんなよ」
「僕を好きだと言った貴方はもういないんですね」
「いつの話してんだ」
「………………」
昔は周囲が引いてしまうほど、カノトに好きを伝えていたマイキー。誰がいてもお構い無しにハートをたくさん飛ばし、カノトのことをこれでもかと言うほど溺愛していた。
けれど今となっては『好き』や『愛してる』の言葉さえ鬱陶しい。カノトが自分に向ける好意に苛立ちさえ感じていた。
「わかりました…」
カノトの瞳に深い悲しみの色が宿る。
「指輪の件はもう結構です。いつまでも貴方の面影を求めていても仕方ないことが分かりました。なので…貴方の"答え"を素直に受け入れます」
「どういう意味だ」
「もう貴方を想うことをやめます。貴方を好きでいることを諦めます。貴方が煩わしいと感じるもの全て、僕は求めないことにします」
ハッキリと告げても、マイキーの顔色は変わらない。
「でも貴方を救うことは諦めません。絶対に貴方を救います。貴方が嫌だと言っても知りません。未来の貴方との約束を僕は守ります」
「言いたいことはそれだけか?」
「そんなワケないじゃないですか。貴方に会ったら文句の一つや二つ…いや、十はあったんです」
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