第57章 私の知らない貴方
茫然とへたり込むカノトの耳に不快感を纏った嫌な音が聞こえた。けれど後ろを振り返る気力はなく、ただ悲しい瞳で地面を見つめる。
「(人を助ける仕事がしたくて医療の道に進んだ。傷付いた患者の心に寄り添って、少しでも元気づけられたらと思い、看護師になった。)」
それなのに…最初のタイムリープから自分の目の前でどれだけの人が命を落としていっただろう。兄さんの時も、場地さんの時もエマちゃんの時も、ドラケンくんの時も。
その場にいたのに救えなかったのだ。すぐに応急処置をして病院に運んで手術を受けていたら、助かっていたかも知れない命だったのに。現代‹みらい›で看護師になってたって、この時代の自分は何も出来ない。それが悔しくて仕方ないのだ。
「(何のために人を助ける仕事に就いたの。その場にいてどうして助けられないの。どうして私は──……)」
「ダメだマイキー!!そいつだけは…!!」
突如、焦った声色で叫ぶココ。その直後、背後に立った人物の気配にぞわりと身を震わせた。
ヒュッ
「…………っ!!」
ゴッ
「ぐっ!!」
風切り音が間近で聞こえ、咄嗟に顔の横を両腕でガードしたが完全には防ぎ切れず、重い衝撃と共に吹き飛んだ。
「いっ…た…」
カノトは水が溜まった箇所で体を打ち付け、痛みで顔を歪める。じんじんと痛む腕を押さえながら上体を起こして顔を上げる。
「!!」
すぐ近くにいたマイキーに驚いて目を見張る。冷たい眼差しを向けるマイキーは何の感情もこもっていない声色でカノトに言った。
「最初にテメェを殺しとくべきだった」
「(そうか…彼に蹴り飛ばされたのか。)」
道理で衝撃が尋常じゃないと…
「(もう私を傷付けることに迷いはないんだな。)」
ズキッと胸が痛んだ気がしたが、カノトはよろめきながら立ち上がり、雨に濡れた厳しい顔つきでじっとマイキーを見据える。
「マイキーくん、指輪はどうしましたか。ネックレスだけ突き返されても困ります。もう必要ないなら指輪も返してください」
「そんな邪魔なモンとっくに捨てた」
「何処に」
「捨てた場所まで覚えてねーよ」
冷たい言い方にカノトはグッと眉間にしわを寄せる。
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