第57章 私の知らない貴方
「(羽宮くんの時と一緒だ。万次郎くんが人殺しになるなんて…そんなの絶対にダメ。でも…どうしたらいいの?)」
「テメェ、邪魔だよ」
マイキーはサウスを庇うように立ちはだかるタケミチの右腕を掴むと、膝で蹴り上げて骨を折った。
「あ"あ"ぁ"あ"あ"ッ!!」
「タケミチくん!!」
痛みに思わず呻き声を上げ、その場に蹲る。
「さて、どうやって死にてぇ?」
タケミチの事など無かったかのようにサウスに近付き、瞳孔を見開きながら低く冷たい声で呟くマイキー。
「ダメだマイキー君!!!」
タケミチが叫んだ直後、グシャッという嫌な音が聞こえた。倒れているサウスに馬乗りになったマイキーが顔面を殴り付ける。
「っ…………!!」
「あ!カノト!!」
無心で殴り続けるマイキーの姿に怯えていたカノトだが、ギリッと歯を噛み締め、力の入らない体を無理やり動かし、マイキーの元に駆け出す。
後ろで千咒が名前を呼ぶ声がしたが、それを無視して、返り血を浴びるマイキーの振り上げる腕にギュッと抱き着いた。
ピタッと動きを止めたマイキーは、横目で自身の腕に抱き着くカノトを見遣る。
「もう…やめてください。前にも言いましたよね?これ以上…自分自身を壊すのはやめてください」
「………………」
「僕に止められて不快なのは分かります。邪魔な存在であることも理解してます。それでも僕は貴方を止めるんです。貴方がこれ以上堕ちてしまわないように…!」
震える体と涙を浮かべた顔でそう言えば、掴んでいたマイキーの腕の力が抜け、下ろされる。
「!」
止めてくれたのだとホッと胸を撫で下ろした時、逆の腕が振り上げられ、そのままサウスの顔面に向けて振り下ろされた。
グシャッ
「ひッぅ……!!?」
ビシャッと返り血を顔に浴び、小さい悲鳴を上げる。
「う、ぁ…あぁ…どう、して…」
サウスの体から退いて立ち上がったマイキーは、血まみれの左手を振り払う。安心した矢先、絶望の底に叩き付けられたカノトは、強いショックを受け、涙をポロポロと流す。
「サウス!!」
折られた右腕を押さえながらタケミチが駆け寄る。血まみれのサウスは息をしていなかった。
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