第57章 私の知らない貴方
「千咒!!しっかりして!!」
「逃げ…ろ。オマエまで…巻き込む…っ」
「友達が怪我してるのに放っておけない!!」
「どけ!花垣武道。」
「!」
タケミチを押し退け、こちらに近付いて来るサウスに気付き、険しい顔で睨み付ける。
「また会ったな、宮村心叶都。今日はあの雑魚はいねぇのか?」
「もう勝負はついたろ。これ以上僕の友達に触れたら許さないよ」
「ハッ、また『許さない』か!?なら次はテメェがオレを楽しませてくれるんだろうなァ!?」
ニヤリと勝気な笑みを浮かべるサウスの体からオーラがぶわっと溢れ出す。カノトの頭の中では危険信号が鳴り響いている。だが彼の中には逃げるという選択肢は最初から存在しない。
「(ここで諦めたら全てが終わる。二度と最悪な未来を繰り返しちゃいけない。その為に今まで頑張ってきたんだ。)」
「!」
「(コイツのせいでせっかく手に入れた未来を壊されてたまるか──!!)」
「グラツィオーン(いいね)!!その生意気な眼、気に入った!!テメェの全てをぶつけてみせろ…!!」
強い眼差しを向けるとサウスの声が愉しげに弾んだ。カノトが立ち上がろうとしたその時。
「!?」
突如、二人の間を滑るように鶴蝶が吹き飛ばされてきた。
「カクチョー!?」
「何で彼が…!?」
ゾクッ
「っ!?」
悍ましい程の殺気が身体中を突き刺す。一瞬にして恐怖心が芽生えたカノトが顔を上げるとその視線の先には、関東卍會の特服を脱いだマイキーがいた。
「(黒い衝動…。そうか、鶴蝶と戦ってたのか。雰囲気も空気もまるで別人。怖い顔が更に怖くなった。)」
「へー、ついに動いたか佐野万次郎」
「(今の彼は黒い衝動に呑み込まれてる。そうなるともう誰にも止められない。私の声だって…届かないのに。)」
すると倒れていた千咒が起き上がり、カノトはその体を支える。
「ひっこんでろマイキー!!!サウスとジブンの1対1(タイマン)だ!!」
声を荒らげる千咒にマイキーの鋭い眼光がギロリと向けられる。
「オマエから死ぬか?」
マイキーの禍々しい殺気を受け、思わず千咒は竦み、冷や汗を流す。
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