第57章 私の知らない貴方
「伝説が呆気なくやられるなんて…」
驚異的な力を見せつけるサウスの前には、仰向けで倒れたベンケイと、血を吐いて咳き込むワカがいる。
「(あの状態、知ってる。羽宮くんを殴り殺そうとした万次郎くんの黒い衝動に似てる。まさか…サウスも同じ衝動を?)」
サウスの実力はドラケンとの戦いで知っていた。元東卍の副総長であるドラケンを拳一つで圧倒する力の持ち主だ。
その時は黒い衝動は発していなかったが、今目の前にいるサウスは伝説の二人でさえも敵わない相手。それがこの先の戦いにどのような変化を齎すのか、考えるだけで恐ろしかった。
「オイ」
「千咒!?」
「テメェはジブンがぶっ潰す」
「ビバーチェ(いいね)!!」
目の前で"伝説"コンビが瞬殺され、絶句するタケミチとカノト。そんな中、サウスの前に千咒が立ちはだかる。
「ダメだ千咒…。君とサウスじゃ体格も実力も違う。下手に攻撃を仕掛けてサウスの黒い衝動に抗えなかったら…」
「そこまで心配しなくても大丈夫よ」
「え?」
「多分アイツ、本来の力を抑え込んでるわ」
「それって…」
「死ね!!梵(ブラフマン)!!!」
拳を大きく振り上げたサウス。瞳を閉じていた千咒が、カッと開眼し、目からオーラを出す。そして振り下ろされた拳を器用に避けると、そのまま腕を掴み、サウスの顔面へと三連撃を繰り出す。
「あれが…千咒の本当の力、なの?」
オーラを纏わせた千咒が足技だけでサウスを倒した事に驚きを隠せない。
「(伝説が挑んでも勝てなかったのに、あの巨体を倒しちゃうなんて凄すぎる…!!)」
喜んだのも束の間、あれだけの打撃を受けてもサウスはまだ立ち上がる。彼の全身から先程の千咒と同じようなオーラが溢れ出ていた。
「久しぶりに本気になれそうだ。"無比の千咒"」
そして再び二人の戦いが始まる。千咒はサウスの攻撃を避けつつ、顔面へと蹴りを放つが、拳を振り切ったサウスの一撃が千咒に直撃し、地面を転がるようにタケミチの元まで吹き飛ばされる。
「千咒!!」
今度は千咒が倒され、慌てて彼女の元に駆け付ける。口から血を吐き出す千咒をカノトが心配そうな顔で見下ろす。
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