第57章 私の知らない貴方
「ほんとキリがないわね」
「しつこい連中だよ」
「この抗争もいつまで続くのかしら…」
「ねぇ海凪ちゃん。もし良かったら僕と…」
「有難う。でも一緒には行けない。さっきも言ったけど、今の万次郎を独りにできないわ。このままだと嫌な予感がするの」
断られることは最初から分かっていた。だからこれ以上引き留める必要もない。でも少しだけ残念な気持ちがあり、寂しげに笑う。
「…そっか、敵同士なのは辛いね。でも…君があの人の傍にいてくれて良かった」
「……………」
「僕は一緒にはいてあげられないから、海凪ちゃんがあの人を支えてあげて」
「絶対に諦めないでよ、カノ。万次郎を救えるのはアンタしかいないんだから」
「もちろん、諦めるつもりはないよ。必ず救うって約束した。どんなことがあっても絶対に、万次郎くんを見捨てたりしない」
先程まで暗い顔をしていたカノトとは違い、本来の目的を思い出したカノトの表情は凛としていて、虚ろだった眼にも光が戻る。
そんな彼を見た海凪はふと小さく笑う。
「アンタ達が仲直りするまで」
「え?」
「お互いに本音を伝え合って、アンタ達がまた幸せそうに笑える日がくるまで…アタシがアンタの代わりにアイツを見守っててあげるわ」
「うん、有難う。万次郎くんのこと、よろしくね、海凪ちゃん」
「長くは待てないわよ」
「頑張るよ」
本当は自分が傍にいてマイキーを支えたい。でも所属してるチームが違う上に、下手に近付いてうっかり殺される可能性もなくはない。だからマイキーを救うのは、全ての準備が整ってからだ。
「(今回はフィリピンのようにはいかない。黒髪の万次郎くんには殺したい衝動はあったけど、まだ私のことを好きでいてくれた。でも今の万次郎くんには…私に対する想いとか好きの感情が一切ない。だから慎重にいかないと。)」
するとその時、強烈な悪意と殺気が二人の全身に突き刺さり、ゾクッと身震いをする。二人が同時に見た先にはサウスとベンケイとワカがいた。
「テメェらに止められるか?この衝動を。」
抑え切れない衝動を爆発させたサウスは、暴力にも似た戦い方で初代黒龍の二人を圧倒し、その身に返り血を浴びた。
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