第57章 私の知らない貴方
「"自分なんか"って言ったわね?その言葉はアンタを守って命を落としたケンちゃんに対して失礼だわ」
「っ…………」
「ケンちゃんは死ぬ間際にアンタに何を伝えたの?"お前を庇ったせいで死ぬんだぞ"とでも言われたからそんな顔で謝ってるの?」
「違う…違うよ。ドラケンくんは…」
『オマエを死なせなくて良かった』
優しさを含んだ声色と言葉を思い出し、目尻に涙が浮かぶ。ドラケンが最後に本当に伝えたかった言葉を理解したカノトを見た海凪は、顔色を変えずに言葉を続ける。
「ケンちゃんに救われた命、大事にしなさい」
「…恨まないの、僕のこと」
「何?恨んで欲しいの?」
「そうじゃないけど…」
「アタシだってアンタと同じ気持ちよ。いなくなって欲しくない人に限って、この世界から消えてしまうんだもの」
「……………」
誰のことを想ったのか、一瞬だけ海凪の顔が切なそうに歪んだ。
「けど最後に選択したのはケンちゃんよ。そこにケチを付けるのは無粋だわ。後悔しないと思ったからアンタを助けた。だからアタシはケンちゃんの思いを否定することはしないわ」
「…海凪ちゃんは強いね。僕はどうしても自分を責めてしまう。きっと心が弱いんだ。」
「アンタは強いじゃない」
「そうかな…」
「どんな状況に立たされても簡単に心は折れない。その強い心でいつも万次郎やみんなを支えてきたんでしょ。弱い奴なら立ち向かう勇気すら最初からないわよ」
「海凪ちゃん…」
言い方は少し冷たいけど、そこに悪気がないことは知っている。だからこそ、海凪の言葉は嬉しかった。
「(そうだよ、簡単に心を折っちゃ駄目だ。私にはたくさんの人と交わした約束がある。こんなところで立ち止まれない。)」
ドラケンくん
もう弱音は吐きません
貴方が残してくれた言葉を胸に
貴方との約束を守るために
少しずつ前に進んでいきます
「心配してくれて有難う」
「当たり前じゃない、友達なんだから」
「うん」
すると感動の雰囲気をぶち壊すように、数名の敵が二人に襲い掛かる。気配にいち早く気付いていた二人は敵の動きを視界に捉え、同時に片足を振り下ろし、敵を地面に叩きつける。
.