第57章 私の知らない貴方
「今の状況のアイツを放っておけなかった」
「!」
海凪の視線は少し離れた場所に立っているマイキーに向けられる。カノトもその視線を追うが、まだ一度も彼と目が合っていない。
「誰にも心を許さず、独りで生きることに慣れた万次郎を無視できなかった」
「……………」
「悪の道に進んだのも覚悟の上。もう引き返せない事も知ってる。それでもアタシはアイツに着いていった。後悔はしてないわ」
「海凪ちゃん…」
「でも別の意味で後悔はしてる」
「え?」
海凪が切なそうに微笑み、こちらを見る。
「アンタを万次郎の傍にいさせてあげられないことよ」
「!」
「昔からアンタ達はお互いに愛し合ってた。特に万次郎の愛が重すぎて、アンタを本気で監禁しちゃうんじゃないかって心配したくらいよ。でも…それでもアンタ達はいつも幸せそうだった」
海凪の記憶にはいつも幸せそうに笑っていた二人の姿が思い浮かぶ。
「今のアンタ達、ちっとも幸せそうじゃないわ」
「っ…………」
ハッキリとした物言いにビクリと体が震えた。決して海凪が怖いからではない。彼女が口にした言葉がずしんと心に重くのしかかり、違うと否定できなかったのだ。
「……………」
眉を八の字に下げ、辛そうな顔で黙り込んだカノト。海凪は雨が降り続く空を見上げ、ポツリと静かに呟いた。
「…ケンちゃん」
「僕のせい、なんだ…」
「!」
「僕を庇ったせいで…ドラケンくんは死んだ。彼が命を落としたのは、僕のせいなんだ…っ」
「アンタのせい?どういうこと?」
「僕が挑発したせいで…ドラケンくんは僕を守るために…僕の代わりに撃たれたんだ…」
ドラケンの死を再び思い出し、くしゃりと顔を歪め、泣きそうになっているカノト。
「ごめん海凪ちゃん…ごめん…っ」
「……………」
「僕なんかを庇ったせいで、君の大切な人を死なせてしまった…っ」
自分のせいでドラケンが死んでしまったのだと泣きそうになりながら海凪に伝える。それを聞いた海凪は短い溜息を零した。
「アンタの悪い癖よ」
「……え?」
カノトは海凪を見る。
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