第57章 私の知らない貴方
彼にとって龍宮寺堅という男は、自分の人生に於いて無くてはならない存在だった。それなのに、ドラケンの死に関して何とも思っていないのか、マイキーは平然とした顔で素っ気なく言葉を返した。
「ボス、気付いてるだろ。あの群衆の中にアイツがいる。助けに行かなくていいのか?」
「必要ない」
「ずっと会いたかったんだろ?」
「いつの話してんだ。もう捨てたも同然の奴を助けて何になる?邪魔な存在でしかないのに」
煩わしそうに言葉を吐き捨てたマイキー。昔からカノトにベタ惚れだった男がここまで変わってしまったことが未だに信じられないココ。
その一方で、襲い掛かってくる敵を次々と天誅していくカノト。ドラケンの死によって心身共に疲弊しているが、手加減は一切しない。
ガッ
「かは…っ!」
ドシンッ
「ぐ……っ!」
横顔に狙いを定めて蹴り飛ばしたり、腕を掴んで反対側に背負い投げて気絶させたり。予想外の強さに戦っていた周りの奴らも動きを止め、先程まで襲い掛かる気満々だった男達はたじろぎ躊躇っている。
「な、何だよ…アイツの強さ…」
「自分よりでかい奴を投げ飛ばしたぞ!?」
「誰だよ、弱いって決めつけたの…!」
本人は聞こえていないのか、雨に濡れたまま、暗い瞳を地面に向けている。
ザッ
「!」
その時、背後から音がして、振り向き様に拳をぶつけようとすれば、パシッと腕を掴まれる。
「………っ!?」
相手の顔を視界に捉えた瞬間、カノトは驚きのあまり言葉を失う。
「どうして君が…」
「……………」
「海凪ちゃん──……」
こんな場所で再会するとは思わなかったのか、カノトは驚きを含んだ声で彼女の名前を呼んだ。
「久しぶりね、カノ」
昔は肩までしかなかったピンク色の髪は、この10年で胸元まで伸びていた。"真一郎の色"だと言った赤いピアスも付いている。
「その特服…まさか海凪ちゃん…」
「…関東卍會総長補佐をしてるわ」
「総長…補佐」
「アンタの敵ね」
「っ、どうして…っ」
何故彼女がそっちにいるのか、何故自ら悪の道に進んだのか納得がいかず、悲しげな顔で海凪に問いかけた。
.