第56章 彼の運命
「マイキーくんは自分から僕を手放したんです。もう彼にとって僕は必要のない人間だと判断したから。だから…僕が泣いても、きっとあの人はもう涙を拭ってはくれない」
「カノちゃん…」
「(あの時の状況とは訳が違う。)」
かつてフィリピンで再会した黒髪のマイキーは自分の元から離れて行ってしまったカノの事が許せず、銃を突き付けて殺そうとした。
でも彼が息を引き取る直前、殺したいほど憎んではいたけど、本当はずっと変わらずカノを愛していたことを伝え、泣いたカノの涙を優しく拭ってくれた。
「(未来の万次郎くんの様子だと…もう彼の中に私を好きだっていう気持ちはないのかも。)」
「…マイキーを嫌いになったか?」
「!」
「自分を殺そうとした相手の傍にはもういたくねえって思ったんじゃねえの?」
「…約束したんです。何があっても絶対に万次郎くんの傍を離れないって」
「……………」
「どんなに拒絶されても、殺したいほど憎い相手だと思われても、愛した人をそんな簡単に嫌いにはなれませんよ」
「次は死ぬかもしれないんだぞ」
ドラケンが自分の身を案じて少し強めな口調になっていることは気付いていた。それでもカノトは小さな笑みを浮かべる。
「ドラケンくんと同じで、僕もマイキーくんを見捨てられないんです」
「!」
「それに本気で僕を殺すつもりなら最初から心臓を狙えばいいのに、そうしなかったのはきっと…」
『助けてくれ、カノ』
決意を孕んだ目で真っ直ぐにドラケンを見る。
「私は万次郎くんを救います。彼の心に寄り添って、二人で一緒に乗り越えていきます。この先の未来で幸せになるために」
その言葉に厳しい顔つきだったドラケンが、ふっと口許に笑みを湛えた。
「そうだった、オマエもアイツのことが大好きで仕方ないんだったな」
「ドラケンくん…」
「オマエがいるからアイツの心は壊れずにいた。カノの存在がアイツを強くさせた。けど…今のマイキーにオマエの声が届くかは分からねぇ」
「……………」
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