第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「ねぇ君はさ、将来の夢ってある?」
「はぁ?何だよ藪から棒に。将来の夢?」
「もしあるなら教えてよ」
「…絶対笑うから言わねぇ」
「人の夢を笑ったりしないよ」
「……………」
どこか言いづらそうに言葉を詰まらせた陽翔は食べかけの肉まんに視線を落としながら、か細い声で呟いた。
「…小学校の教師」
「素敵な夢じゃん。どこに笑う要素があるの?君みたいな明るくて元気な先生は子供達にも好かれると思うよ」
「俺…人気あると思う?」
「もちろん」
「イケメンのお前が言うなら間違いねーな。そういうお前は将来の夢とかねーの?」
「僕?」
「やっぱ芸能人とか?それかモデル?」
カノトの容姿なら確実に芸能界でも通用するだろう。だが本来の"彼女"は既に人を救う仕事に就いている。芸能人もモデルも興味はない。
「人を救う仕事がしたいんだ」
「それって…医者とか?」
「医療の道に進みたいとは思ってる」
「へぇ!いいじゃん!お前ならきっとなれるよ!応援してるからな!」
「有難う。僕も君が教師になれるように応援してるよ」
「お互いに夢叶えようぜ!」
陽翔はニッと歯を見せて笑う。カノトも返事の代わりに笑みを浮かべた。
「(みんな夢に向かって頑張ってるんだな。もう昔みたいにヤンチャしてるワケじゃない。)」
『東卍のみんなもマドカさんもオレが絶対に守ってみせる』
「(万次郎くんにみんなが死ぬ未来を話した…そして2年後の今、ここは万次郎くんが守ってくれた未来なんだ。)」
それなら…巻き込んじゃダメだ
私とタケミチくんでやらないと
「(あの人が自分を犠牲にして守った未来なんだから。)」
覚悟を決めた時、携帯が鳴った。
「(ドラケンくん!!)」
「出ていいぜ」
陽翔から許可をもらい、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
《カノ、今から来れるか?》
「え?」
ドラケンからの呼び出しを受けたカノトはすぐに向かう事を伝え、通話を切る。
「ごめん、急用が入った」
「急ぎなら送ってってやろうか」
「ホント?助かるよ」
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