第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「(ヤ○ザ!!?)」
「(寄りたいトコって此処!?)」
部屋の中に足を踏み入れると、明らかにカタギの人間が所属するような場所だった。
「(カノちゃんの巡り合わせってヤバい方の巡り合わせじゃんか…!!)」
「(お、おかしいなー…"良い方"の巡り合わせな気がしたんだけど…)」
二人は体を恐縮させながら視線を合わせ、アイコンタクトで会話を続ける。
「(社長椅子に座ってる奴、絶対モノホンだよ!!サングラス掛けてっし!!)」
「(それを言うならあっちのソファーに座ってる人もサングラス掛けてるよ!!しかも睨んでて怖い…!!)」
妙な緊張感と恐怖でプチパニックを起こしていると社長椅子に座っている人物が口を開く。
「久しぶりじゃねーか!タケミっち!!宮村!!」
「(あれ?この声って…)」
「だ…だれですか?」
涙を浮かべたタケミチの声が恐怖で裏返る。
「ひでぇなぁオレだよ!林田春樹!!」
サングラスを取った顔に見覚えがあった。
「やっぱりパーちんくんだ…!」
「え!?パーちん君!!?え!?あれ!?出所したンスか!!?」
「は?オイオイなんのギャグ?パーの出所なんていつの話してんだよ?」
「三ツ谷君!?」
「どうしたタケミっち?オマエも部屋探しか?」
「ぺーやん君!」
「(なんだ…此処ってパーちんくんの会社だったんだ。焦って損した。そして色々酷いこと言ってごめんなさい。)」
懐かしい面々との再会に張り詰めていた緊張感と恐怖が嘘のように消え、二人は顔を見合わせてホッと安堵の表情を浮かべた。
「え?タカちゃんも、もしかして部屋探し?」
「おう!ちっちぇアトリエ借りようと思って」
「聞けよ八戒!三ツ谷、部屋の条件めっちゃうるさくてさー」
「ろくな部屋見せねぇからだろ!?」
「パーちん君、タカちゃんからぼったくったらオレが許さないからね!」
「(そっか。パーちんくんとぺーやんくんは現代‹みらい›でも不動産会社やってたっけ。)」
現代(みらい)でもみんなは各々の夢を叶えていた。三ツ谷は駆け出しのデザイナー、八戒は世界を股に掛ける人気モデル。彼らの夢はこの瞬間から動き出していたんだと改めて思い知った。
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