第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「オイタケミっち!」
「ん?」
「またオマエこーなってない?」
「うっ」
千冬に視野の狭さを指摘され、タケミチは何も言えなくなる。
「はぁ、オマエはすぐ視野が狭くなる」
「でも…」
「マイキー君に思う事、いっぱいあるかもしんないけどさ、まずケジメつけなきゃいけない相手がいるんじゃない?」
「ケジメ?」
「ヒナちゃんの所に行っておいでよ」
「!!」
慌てて準備室から出て行ったタケミチを見送った後、役目を終えた山岸も満足げに帰って行った。
「ねぇ千冬くん、少女漫画って面白い?」
「カノ読んだことねーの?」
「子供の頃は勉強漬けの毎日だったの。特に父親が厳しくて…勉強の妨げになるものは一切与えてもらえなかった」
「親父さんと折り合い悪ぃの?」
「昔はね。今はちゃんと和解してるよ。だから漫画自体ちゃんと読んだことないんだ」
「興味あるなら貸してやるよ」
「いいの?」
「ちょうど読み終わったしな」
「有難う!」
読み終わった少女漫画を借りることが出来、カノトは嬉しそうに千冬から受け取る。
「(帰ったら早速読ませてもらおう♪)」
「…なぁカノ、オマエ大丈夫なのかよ」
「え?大丈夫って何が?」
「未来のマイキー君に殺されかけたんだろ?」
「!!」
千冬に心配そうに言われ、あのボーリング場で起きたマイキーとのやり取りを思い出す。
「…うん、大丈夫だよ。流石に血が流れ過ぎて死ぬかと思ったけどこうして生きてるし」
「また酷い目に遭うかも知れないのにマイキー君を助けたいって思うのか?」
「…千冬くん」
「マイキー君はもうオマエのことなんてどうでもいいって思ってるかも知れねぇんだぞ。それなのにまだ…あの人のこと想い続けんの?」
「……………」
「今度は本当に殺されるかも知れないのに」
酷い言葉でカノトを傷付けていることは自分でも分かっていた。ただ千冬は知りたかった。本気で殺そうとした相手をどうしてそこまで好きで居続けることが出来るのかを。
「それは…」
千冬の質問に一瞬言葉を詰まらせた後、カノトは顔を上げて柔らかく笑う。
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