第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「そういえばお前って、松野と仲良いんだな」
「え?千冬くん?」
「最近花垣と松野と一緒にいることが多いだろ。親友枠の俺としては少し複雑な気分なんだけど」
「千冬くんって今どこにいるの!?」
「え?アイツなら多分──……」
陽翔から千冬の居場所を聞いたカノトは、慌てて教室を飛び出し、社会科準備室に向かう。
ガラッ!!
「千冬くん!!」
勢い良く扉を開けると、少女漫画を読んでいた千冬がカノトに気付いて顔を上げる。
「おう、カノか…。そんなに慌ててどうした?もしかしてまた女子に追われてんの?」
中学の頃よりも少しだけ大人になった千冬の姿を見た途端、懐かしさが込み上げ、涙を潤ませる。
「千冬くん…"私"…未来のマイキーくんと握手したの」
「え?」
学校にいる時は『僕』呼びを徹底していたはずのカノトが、突然一人称を『私』呼びに変えた事で千冬は一瞬戸惑った顔を浮かべたが、すぐにハッとして椅子から立ち上がった。
「オマエまさか…未来のカノか!!?」
「そしたら戻って来ちゃった」
「…え?なんで…!?」
「分かんない。でも"あの人"が『助けて』って言ってるの」
目尻に溜まった涙を拭い、未来のマイキーと握手した方の手をじっと見つめる。
ガラッ!!
「千冬!!」
先程と同じように扉が勢い良く開かれる。
「今度はタケミっちか。その様子だとオマエも未来のタケミっちなんだろ?」
「え!?何で知って…って、カノト!?」
「きっと来ると思ったよ」
「オマエもタイムリープしたのか!?」
「うん」
「オレ…マイキー君と握手してないのに突然意識が途切れてさ…気付いたら過去にいたんだ」
「あー…私がマイキーくんと握手したんだ」
「え!?」
「だからタケミチくんも一緒にタイムリープしちゃったんだと思う」
「オマエがマイキー君と…。そっか、今度は逆になったな」
「だね」
「なんだよオマエら、二人揃って戻って来たのかよ。ったく…どんだけ仲が良いんだか」
呆れるような言い方だったが、千冬は二人に再会した嬉しさが抑えられず、笑顔を浮かべた。
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