第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「あたしは父からブランド物の時計を貰ったわ。なんでも海外に数個しか製造されてないんですって」
「世界に!?それは貴重だね。もし傷でも付いたら大変だ」
「そう思って特別な日にしか付けない事にしてるの。そういう宮村はどうなの?」
「最新の音楽プレイヤーを兄から貰ったよ。予約しても数ヶ月待ちで漸く手に入れたって言ってた。バッテリーの長持ちと音質が良いんだ」
「今持ってきてんの?」
「実は充電するの忘れてて…」
「意味ねぇじゃん!」
「君は?さっきから不気味なくらい笑顔だけど何を貰ったの?」
「不気味は余計だっつーの!」
サラッと毒を吐くカノトに鋭いツッコミを入れながら携帯を出した陽翔は、写真フォルダを開いて、ある写メを二人に見せる。
「見ろよコレ!めちゃくちゃカッケーだろ!」
「バイク?」
「そ!前から欲しかったんだよ。親にダメ元で頼んだら買ってくれた!」
そこには見覚えのあるバイクが写っていた。
「これ…ゼファー?」
「よく知ってンじゃん。"ZEPHYR750"な!お前ってバイクに詳しかったっけ?」
「知り合いが乗ってるんだ。その人のは400なんだけどね」
「へぇ、その人もゼファーの魅力に取り憑かれたんだな!ゼファーはいいぞ。乗り心地も良いし、自分好みにカスタマイズ出来るから最高なんだよ!」
「君がバイクに興味があったなんて意外。そこまで熱く語れるのはバイク好きな証拠だね」
陽翔が高校の入学祝いに両親から送られたのはドラケンが乗っているのと同じ愛機だった。
「事故ったら洒落にならないから気を付けなさいよ」
「事故ンねぇって!ちゃんと安全運転で走ってっから大丈夫だし!」
「そういう奴に限って事故る確率が高いのよね」
「俺ってそんなに信用ねーの?」
「逆にあると思ってるのかしら」
「お前ほんっと可愛くねーな…!」
「黙りなさい駄犬。」
「駄犬!!?」
陽翔はガーン…!!とショックを受ける。
「事故らないのが一番だよ。でもバイクを乗る人間として本当に事故だけは気をつけて」
「任せとけって!」
自身の愛機を嬉しそうに眺める陽翔を見て、カノトも小さな笑みを浮かべた。
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