第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「あたし達はカノトに会いたくて待ってるのに!」
陽翔と女子達の間で言い争いが勃発し、流石に周りの迷惑になると思ったカノトは、怒る彼女達を宥める事で、この場を治めようとした。
「みんな落ち着いて。怒る気持ちも分かるけどせっかくの可愛い顔が台無しだよ」
「カノト…」
「それにこれ以上騒ぐと先生達に叱られる。僕を待っていてくれるのは嬉しいけど、他の人の迷惑になっちゃうから明日からは朝の出待ちは控えてくれると助かるな」
優しい口調でやんわりと注意を促せば、彼女達は反省したのか、しゅんと落ち込んだ表情を浮かべる。
「ごめんねカノト…」
「此処で待つのはもうやめる」
「あたし達のこと…嫌いになった?」
「そんなことで嫌いにならないよ。休み時間とかなら教室にいることが多いし、またみんなで楽しくお喋りしようよ」
ニコッと笑いかけると彼女達は頷いて、もう一度カノトに謝るとその場を去って行った。
「おい!俺には"ごめん"の一言もないのかよ!?」
「行っちゃったね」
「くっそ!何なんだよアイツら!」
苛立った様子で陽翔はカノトの隣にある自分の靴箱の蓋を開ける。
「あの無駄な化粧剥がしてすっぴんのまま人前歩かせてぇ!」
「そういうことを大声で言うから彼女達に目の敵にされるんだよ」
上履きに履き替え、陽翔と一緒に教室まで歩く。その間もカノトは女子達に声を掛けられ、笑みを浮かべながら対応する。
「隣に俺もいるんですケド」
「まるで見えてないかのような感じだったね」
「これだから女子はよォ!!」
一緒にいるはずの陽翔の存在が見えないのか、彼女達はカノトの方に視線が向いていた。
「つか相変わらずモテ過ぎなんだよ!!中学の時よりも更にファンが増えてんじゃねーか!!」
「羨ましいの?」
「別に羨ましくなんかねーやい!!」
口ではそう言いつつも、陽翔は中学の頃から女子達に囲まれてるカノトのモテっぷりをいつも恨めしげに見ていた。
「俺だって髪型とか変えて高校デビューしたのに誰もその話題に触れてくれねぇんだよ。マジで世の中どうなってんの?不公平だろ…!!」
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