第54章 六破羅と梵(ブラフマン)
「嘘でしょ…高校生になってる」
目が覚めるとすぐに違和感に気付いた。部屋に置いてある等身大の鏡に寝巻き姿のままの自分を写せば、明らかに顔立ちが若返っている。
「しかも12年前じゃなくて10年前にタイムリープしてるし…」
驚きを隠せず、鏡の前で棒立ちになる。自分の身に何が起きたのか理解出来ないまま、とりあえず制服に着替え始めるも、動揺と混乱からネクタイを結ぶ手がもたついてしまう。
「(一体何が起きたの?だってあの時…)」
『助けてくれ、カノ』
「そっか…万次郎くんと握手したから戻ってきたんだ」
意識が途切れる前の記憶をふと思い出した。
「大丈夫、まだ終わらせない。必ず貴方を暗闇から救ってみせるから」
結び終わったネクタイをキュッと締め、カノトは学校へと向かった。
◇◆◇
「おはようカノト!」
「おはよう」
「ねぇカノト!昨日クッキー焼いたの。少し焦がしちゃったんだけど…食べてくれる?」
「有難う、後で食べるね」
「カノト君!今日の放課後って…」
学校に到着するなり、自分のファンだと云う女子達に囲まれてしまう。カノトは彼女達の話に耳を傾けながら靴箱の蓋を開ける。
「邪魔なんだよブス共!」
「出たわね森崎陽翔!」
「フルネームで呼ぶんじゃねーよ」
"森崎陽翔"───カノトの中学からの友人である。登校早々彼はカノトの周りに群がる女子達の存在に嫌気が差し、ウンザリした顔で悪態を付いた。
「そこ俺の靴箱なんだよ、さっさと退け」
陽翔は片手で女子達をしっしっと追い払う。
「あんたが早く来ないのが悪いんでしょ。なのに何であたし達が退かなきゃいけないわけ?」
「少しはカノトを見習って早く来たら?」
「んだと!?」
「(また始まった…)」
カノトは小さく溜息を吐いた。
「つーか毎朝コイツのこと出待ちみたいな真似してんじゃねーよ!鬱陶しいんだよブス共!」
「何コイツ超ウザイんだけどー!」
「カノトと仲が良いからって調子に乗らないでよね!」
「実際に仲良いんだから仕方ねーだろ」
「マジでムカつく!!」
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