第53章 貴方を助けるために
「わたし、は…ハァ…貴方を…幸せに…するって…誓った、んです…。ハァ…でも…ッ…まんじろうくん…だけが…ハァ…苦し、そうで…ゲホッ…だから…私…ハァ…」
呼吸が浅いせいで息を吸う感覚が短くなる。それでも全く力の入らない体を無理やり起こして、その場に項垂れるように座り込む。
ポタポタと止まらない血が地面に落ち、幾つものまだら模様を作る。意識が朦朧とする中でカノは、必死にマイキーを繋ぎ止めようとしていた。
「私、が…助け、ます」
まだ自分を救う事を諦めていないカノの言葉にマイキーは驚いて目を見開く。
「あなた、を…助ける…何度だって…。まんじろーくんが…私を…助けてくれた…ように…。私は…貴方の為なら…何だって、する…だから…」
「"オレの為なら何だってする"?」
「!し、ます…だから私と…」
「────じゃあ……」
振り返ったマイキーの瞳は相変わらず光を失っていて、血まみれのカノに無表情でこう告げた。
「オレの為に死んでくれ。」
「っ…………」
その言葉を言われた瞬間、ずっと前に視ていた夢を何故か思い出す。
真っ黒な空間に現れた白髪のマイキーに銃を突き付けられて殺される夢で。彼は憎悪を孕んだ瞳と声で必ず最後に…
『オレの為に死んでくれ』
そう言って、引き金を引いた。
「最後はオレの役に立って死ねるんだ。本望だろ?」
「万次郎…くん」
「ここで全部終わらせる」
「待っ……!!」
歩き出すマイキーを引き留めようと右手を伸ばすも、体に力が入らず立って追う事もできない。
「…行かないで」
どんどん遠ざかるマイキーの背中を見つめ、震える声で涙ながらに呟くが、マイキーが足を止めてこちらを振り返る事はない。
「万次郎くん…」
視界が滲み、涙が溢れる。カノは意識を保つ事が出来ず、その場に倒れ込んだ。
◇◆◇
三途の待つ外には向かわず、屋上に続く階段を登るマイキー。
「ん?ねぇねぇ、なんかアレやばくない?」
「え!?」
「ヤベェ飛び降りんじゃねぇのアイツ!!」
「オイ!屋上に飛び降りようとしてる奴いる!!!」
「え!?うそっマジ!?」
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