第53章 貴方を助けるために
過去が塗り変わる前、芭流覇羅との抗争でマイキーが一虎を撲殺する事件が起こった。後にそれは二人がタイムリープした事でマイキーが一虎を撲殺する未来は回避できたが、カノは一虎を撲殺した原因がマイキーの黒い衝動のせいからだったと知り、驚きを隠せない。
《その衝動を抑えていたのは多分兄貴であり、エマであり、場地だった。》
《12年後の自分が怖い。周りを不幸にしてるに違いない。だから東卍のみんなとは決別する。…カノ、オマエとも。》
「え……?」
《わかるだろ?アイツらもオマエも巻き込みたくないんだ。大事な彼女なら尚更。》
画面の中のマイキーが眉を下げ、切なげに笑う。
《だから最後に謝っておく。》
「(最後…?)」
《オマエとの約束は守れそうにない。幸せにしてやれなくてごめん。ずっと傍にいるって約束したのに破ってごめん。もうオレのことは忘れて生きろ。ネックレスも指輪も捨てていい。》
「…ちょっと…待って…」
《オレにはもうオマエは必要ない。オマエが傍にいなくてもひとりで大丈夫だから。》
「(何、それ…必要ないって…忘れて生きろって…どうしてそんなに簡単に…)」
マイキーの言っていることが信じられず、頭が混乱する。ドクンドクンと何度も心臓が嫌な鳴り方で鼓動を繰り返す。
《カノ、約束してくれ。オマエももう12年後のオレに近寄るな。過去に戻ってオレを救おうなんて思うな。》
《オレは自分でこの道を選んだ。》
「……………」
暗い面持ちだったマイキーが顔を上げ、まるで目の前にいるカノに語り掛けるように笑みを浮かべて言う。
《今までオレの我儘に付き合ってくれてアリガトな。オレを愛してくれて有難う。でも…もう終わりにしよう。》
《マドカさんのいる世界で、どうか幸せになってくれ。》
そこで映像は終わった。余りのショックにカノは放心状態から動けず、ただ乱れる画面を呆然と見つめていた。
その帰り道────。
「(万次郎くんは誰かのせいで闇堕ちしたんじゃない。自分自身の"黒い衝動"のせい…もうどうにもならないんだ。)」
最寄り駅まで走行する電車の扉に寄り掛かり、窓から流れる景色を沈んだ表情で意味も無く見つめる。
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