火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第31章 《番外編》咲く色を知るのは
その場に立ち竦み、
今にも泣き出しそうなふみの。
気付くと杏寿郎は、
ふみのの元へと駆け出していた。
杏寿郎は息を切らしながら、
ふみのに駆け寄ると、
その潤んだ瞳を心配そうに見つめた。
ちいさく震えるふみのの拳に
ぎゅっと力が入る。
ふみのは大きく息を吸うと、
胸の想いを伝えた。
「…あ、あの…っ!
…わたし、また、きょうじゅろうさんと、
……おはなし、してみたいです…っ!!」
「…っ!」
ふみのの鼓動は
みるみるうちに早まっていく。
それは杏寿郎にも伝わっていくようで、
少しずつその頬が赤く染まった。
「はい…っ!
たくさん、おはなししましょう!
ほんのはなしも!はなのはなしも!
おれもふみのさんのおはなしを
たくさん、きいてみたいです!」
意気込むように話す杏寿郎を見て、
ふみのには笑顔が戻る。
最初に出会った時に感じた、
この陽の光が差し込むような
ぽかぽかとしたこのあたたかい気持ちは、
なんというのだろう。
杏寿郎はふみのの前に、
ちいさな小指を向けた。
「!」
「ふみのさん、
やくそくです!
また、あいましょう!」
ふみのは照れながらも、
その小指に自身の小指をそっと絡めた。
「はい…っ!
やくそくです!
きょうじゅろうさん!」
ふみのが笑ってくれた。
杏寿郎の心はそれだけで、
天に舞い上がるようだった。
嬉しそうに笑みを交わす二人のその姿を
健蔵と槇寿郎は目を細めて見つめていた。
二人がその感情が恋であることを知るのは
もう少し先の話になりそうだ。
やわらかい土を押し上げて芽吹いた
ふみのと杏寿郎の恋。
その咲く花の色は
どんな色に染まっていくのだろうか。
どうか、どうかこのちいさな恋が
たくさんのしあわせにつつまれますように。
咲く色を知るのは 《 完 》