火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第19章 目覚めたその視線の先に ˖☽°.*
杏寿郎はまだ落ち着かない荒い呼吸を肩で整えながら、
したたるその射液を塵紙で拭った。
ありがとうと、戸惑いつつも恥ずかしそうに
頬を赤らめながらふみのが言うと
杏寿郎は倒れ込むように、
その細い身体をぎゅうっと強く抱きしめた。
「ふみの、…ありがとう」
杏寿郎がその言葉に込めた想いに、
ふみのの瞳に涙が浮かぶ。
感謝を伝えたいのは 私の方なのに…っ
これまで、どれほど、
杏寿郎に救われ、支えられてきたことか。
ふみのが知る言葉の中で、
それ以上の想いを伝える言葉が、
どうしても、見つからない。
でも、自分が持ち合わせている言葉で
杏寿郎への愛するこの想いを、伝えたい────
「…私も、杏寿郎にたくさん、
ありがとうを、言いたい…っ。
いつも傍にいてくれて、ありがとう。
杏寿郎を想えることが、
…本当に、幸せなの。
杏寿郎、…大好きよ」
ふみのも杏寿郎の背中に、
左手を回し、ぎゅっと力を込める。
「───…ふみの」
「…ん?」
耳元で囁く杏寿郎の一段と優しい声色に
ふみのの心は瞬く間にとろけてゆくようだった。
まだ僅かに熱る吐息を互いに鎮めながら、
杏寿郎は触れるだけの口づけを
何度も、何度もふみのに落とした。
甘い馨しいひとときに
二人はただその身を委ねていく。
合わさる互いの胸元から、
とくとくと鼓動が身体に響き伝わる。
それは、
生命(いのち)の生きる旋律(おと)だ。
ふと、視線が交わると、
二人は微笑み合う。
そして、これまでも、
これからも変わることのない
その想いを告げる。
「ふみの、
…心から、愛している」
「私も…、
杏寿郎のこと、愛してる…っ」
重なり、交わる唇。
二人の心が、歓びに詠う。
ふみのと杏寿郎は全身で、
紡がれた愛を感じていた。
鳥の囀りが遠くの方で聴こえ、
ふみのは目を覚ました。
微睡むふみのの視界に、
焔色の色彩がぼんやりと映る。
(…、杏…寿郎…?、)
明るい陽の光に目が慣れてくると、
その視線の先には
静かな寝息を立てて眠る杏寿郎がいた。