第1章 恋の訪れ
桃事件から数日、理由を聞いても教えてくれない恵に謝り倒してやっと仲直りすることができた杏寿郎は荷物を抱えて恵の家までやって来た。
『杏くん。何を持ってるの?』
「これは恵にだ!」
自分にと言われても何なのか検討もつかない恵は促されるまま風呂敷をほどくと葛籠があり中には華やかで上品な浴衣。驚いて杏寿郎を見る。
「母上が日頃の感謝を込めて贈りたいとのことだ!母上の代わりに呉服屋に行き俺が選んだ!」
『私そんな大したことしてないよ!いつもお世話になってるのは私のほうだもん!』
「そんなことはない!俺も恵にいつも元気をもらっているしな!是非今日の花火大会に着てくれ!」
嘘のない真っ直ぐな言葉に嬉しくなる。
『ありがとう。大切にするね!けど、夜に外に出るのは危ないから駄目って言われてるの。』
「だったら家に来るといい!家からなら花火も見れる!ご祖母様も一緒に、そのまま泊まってはどうかと母上も仰っていた!」
『私、行きたい!』
パッと花のような笑顔を見せ家の中をバタバタと走る恵の後ろを着いていく。
『おばあちゃんにお願いしてみる!』
「俺も一緒にお願いしてみよう!」
2人で一緒にお願いすると、驚くほどあっさりと快諾してくれ、祖母と煉獄家へ向かうことになった。杏寿郎は一旦家に戻っていき、恵はすぐに身支度を整える。
『おばあちゃん、どうかな?』
「可愛いよ、似合ってる。」
白地に菊、椿、桔梗などの花が散りばめられた華やかで上品な浴衣に黒の帯が少し大人っぽい。髪は流行りのリボンで飾り、いつも走る道も今日はゆっくり祖母と進む。煉獄家の門が見えてくると、門の向こうに杏寿郎の姿が見える。
『杏くーん!』
恵の声に気づき顔をあげた杏寿郎だったが動かない。気にせずに目の前に行き話かける。
『浴衣ありがとう!とっても可愛い!どうかな??』
聞いても返事なく固まったままの杏寿郎に首をかしげると「ぅぐっ!!」と変な声が出た。
「な、中に!入ろう!!」
なんとか母上の所に来たが恵の顔を見れない。話しかけてくれるのに、あぁとしか返せない自分が不甲斐ない!意を決して横にいる恵を見るが目が合いそうになると首が外れそうな勢いで顔を背けてしまった。