第29章 恋のはなし
「じゃあ心操くんは?」
「えっ」
突然そう聞かれ思わずお茶子ちゃんの顔を見つめてしまった。
「その反応…何かあるわね」
「え…ないない、全然ないよ」
梅雨ちゃんの視線に焦って思わず不自然なほど否定してしまう。
それを見て二人は楽しそうに顔を見合わせた。
「そういえば叶ちゃん前まで心操くんとよく話してたよね」
そう言われ、顔が段々熱くなっていく。
「たしかに、心操くんは叶ちゃんが足怪我した時も反応が大きかったし…事件の時も一番必死になってたの心操くんだったわ」
「心操くん絶対叶ちゃんのこと好きだよねえ」
「や、やめてよそんなことないから」
慌てて私が否定するとお茶子ちゃんがふと私に言った。
「叶ちゃんは心操くんのことどう思ってるん?」
そう言われ思考が止まる。
私が心操のこと…?
どう思ってるんだろう…
一緒にいると楽しいし、こんな個性でも私の目を見てくれる。
私がつらいと気にかけて、助けに来てくれる。
知らない女の子の肩に触れるのを見て、
取られたくないって思った…
「私は…」
私が話そうとすると後ろから大きな話し声が聞こえた。
「おい見たかよあの路地裏の喧嘩、やべーよ人一人くらい死ぬんじゃねえの?」
「警察呼んだ方がいいんじゃねえ?」
「でもあの紫の髪の男…どっかで見たことあるよな」
聞こえてくる会話に心拍数が早くなっていく。
「ああ、雄英の体育祭で見た子だ」
それを聞いて考えるより先に身体が動いていた。
「す、すみません!!それってどこですか?!」
私が突然話しかけるのでその人たちは驚いていた。
「あ…えと、この道を真っ直ぐ行って左に曲がってすぐかな…」
「ありがとうございます!」
そう言って夢中で走り出すと後ろから声がする
「叶ちゃん?!どこ行くん?!!」
「ごめん……!路地裏!!」
私がそう叫ぶと二人はきょとんとしていた。
だけどそんなこと気にしてる暇はない。
心操、心操かもしれない。
そう思うと身体は勝手にそこへと向かっていた。