• テキストサイズ

嘘つきのヒーロー

第23章 やさしい人


____________

夜の学校は信じられない程静かだった。

普段使っている演習場も、訓練場も物音が一切しない。
ただでさえ広い学校敷地内は走って巡るだけでかなりの体力を消費した。


「外したか…」

息切れと共にそう考えてしまい、膝に手をついた。


静かな道に自身の息遣いだけが響く中、ふと幻想の顔が浮かぶ。








「心操ってすごく話しやすい」


幻想の外出に付き合って何回目か、幻想はふとそう言った。


「…え、そんなことはじめて言われたけど、こんな個性だし」

俺と話すやつは大体警戒したり、怖がったりする。
間違っても“話しやすいやつ”ではないと思った。


戸惑う俺を見て、幻想は優しく笑った。


「私も…、こういう個性だから目を見てくれない人は多いよ、全然責めるつもりはないけど」
そう言って俺の目を真っ直ぐに見た。


「心操は私の目を見て話してくれる、それにこんなに私の話楽しそうに聞いてくれる、それが嬉しい」

嬉しそうな幻想を見てなんだか俺は申し訳なくなった。


「別に…そんないいやつじゃないよ。俺捻くれてるし、性格悪いよ」

そう言うと幻想はふふっと笑った。

「そうかもねー」

「おい…」

俺がむっとすると幻想は「だけど…」と言って




「心操はやさしいよ」

そう呟くように優しく言った。




気恥ずかしいその言葉は、ゆっくりと心に溶けていく。


人と比べてしまった劣等感や、他人への僻みを常日頃感じてしまう俺には
何だかその言葉はとても価値のあるように思えた。






そんなことを思い出して、膝についた手に力がこもっていく。


「お前の方が…やさしいよ」

独りよがりで頑張り屋で不器用なお前の事、今皆が必死になって探してるよ。


お前が皆に優しいから…人の事を考えすぎて頑張るから、
皆心配するんだよ


俺だって…誰よりも優しくて努力家なお前だから、こんなに惹かれるんだ。



「だめだ、止まってる場合じゃない…」

俺は再び走り出した




いくつもの演習場や施設を探していると
森を模した演習場で微かに明かりが灯っているのに気づく。


「…なんだ?」



暗闇に包まれる演習場で不自然な淡い人工灯
俺は音を立てないようにその場所に近づいた。
/ 122ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp